夏になり制服が半袖になってから目に入るのは二の腕とか首筋とかシャツにありありと浮き彫りになる筋肉とか血管とかその他諸々。普通に話をしている時でも、遠くから観察している時でも承太郎を見ていると気が付いたら上半身の各部位をひとつひとつ観察してしまっていた。服は着ているのに目のやりどころに困る。そして見つめていると噛みたくなる。変な性癖で変な衝動なのは自覚してはいるけれど、上腕二頭筋から三角筋の辺りまで噛み付いて出来れば軽く血が滲むぐらいまで食み食みしたいと思ってしまう。そんな事をもし承太郎に伝えて嫌われでもしたら怖いから、ガムや鉛筆の後ろやストローを噛むのが最近癖になっていた。承太郎に近付いたら噛み付いてしまいそうだからあんまり近付かないようにして、春までは必ず承太郎と一緒にお弁当を食べていたお昼の時間も、今はひとりで屋上に来てこそこそと隠れて食べた。そんな事を続けて一週間ぐらい経った頃だっただろうか。いつも通りお昼のお弁当を持って屋上へひとり上がろうとした時にふと隣に気配を感じて振り返ると承太郎がいた。

「……どうしたんだい……?」

「おめぇと食べる」

どうしたんだろう、そんな事言わなかったのに本当にどうしたというのだろう。無言で屋上まで付いて来て、無言で黙々と互いにお弁当を食べる。ホリィさんの作った承太郎のお弁当はとても美味しそうに見えた。は自分の母親が作ったのがそうで無いわけではないけれど、彩りが豊かで何品目もおかずが入ってて、ホリィさんは料理をするのが好きだろうし何より承太郎が大好きなのだろうとそんな事が伝わってくる内容のお弁当に見えた。

「花京院、欲しいならやるから言え」

そう言ったかと思うと一種類ずつ僕のお弁当箱に自分のおかずを置いていく承太郎の手を慌てて止める。美味しそうだとは思ったけれど承太郎の為に作られた物を貰う気は全然なかった。置かれたおかずを戻すと承太郎は舌打ちしてから僕の両頬をぴたっと押さえつけるように両手で触れた。

「おめぇな、遠慮し過ぎて欲しいもんを欲しいって言わねー癖やめろ。この前から避けられてんのも何か理由があるんだろさっさと言いな」

「…嫌われるから言えない」

承太郎は眉間に深い皺を刻み込んでから僕の唇に噛み付くようにキスをした。吃驚している間に入り込む舌に抵抗も出来ずに相手のするままに任せる。やがて離れた唇からお決まりのように唾液の糸が粘液性を持って垂れ落ちた。

「…言いな」

どうしよう。こんな事を伝えたらきっと嫌われてしまうのに。ぼろぼろと両目から零れる涙を抑える事も出来ずに、食べかけのお弁当を放置したまま承太郎の胸に甘えて腕を掴んだ。


「……噛みたくなる」

「……………?……おかずならやるが」

「承太郎を噛みたい」


承太郎の腕の中で恐る恐る顔色を伺いながら言うと、承太郎は一度その碧色の瞳を大きく見開いてから暫く固まってしまった。ほら。絶対そうなると思った。きっと嫌われてしまったに違いない。胸が悲壮感に満ちてきて項垂れる。すると耳元で承太郎が噛めよ、と一言囁いたのが聞こえた。はっとして顔を上げると何故か上機嫌そうな表情に変わっていて不可解だけれどほっとする。嫌われてない。しかも噛んでもいいと許可が下りた。それはとても嬉しかった。これからは代用品のストローやガムを噛まなくても思う存分公式に承太郎を噛む事が出来る。体の筋肉だけではない、鼻先も唇も首筋も全部噛みたい。ドキドキしながら承太郎の服のボタンを外して、まず大動脈が走っているだろう首筋に強く噛み付いた。続いて鎖骨に、肩へと続く幾つかの筋肉に順繰りに歯を立てて吸い付き噛むという行為を繰り返す。興奮して自身が熱を持つのはバレないようにと下半身が承太郎に触れないようにコンクリートの床へと座り込みながら、胸筋から腹筋にかけても同じように噛み付いた。呼吸を一度落ち着かせて身を起こした時に、はっとして承太郎の肌が噛み跡だらけになってしまったのに気付く。なんだか申し訳なかった。承太郎と目を合わせて、謝ろうとすると途端に視界がぐるりと大きく動き床へと押し倒される。きょとんとしているとにやりと口角を上げ意地悪そうに承太郎が笑い、僕の制服のズボンの上から反応してるそれに触れた。


「次はこっちの番だな」


……ターン取られた。諦めて腕を伸ばすと承太郎の首に絡まされ、同じところを同じ順で同じようにされる。噛むのも噛まれるのも興奮する、得な性癖をしてると我ながら思う。でも相手は承太郎じゃないと嫌だなとそう感じながら、下腹部へと伸びていく手の侵入を許した。

「…最近ストロー噛んでるから欲求不満なのかと思ってたぜ」

「承太郎の代わりに噛んでいただけだよ」

承太郎の方は噛むだけじゃなくて舐めて咥えて吸い上げて、そして何より僕の中に挿れてくる。指を挿れられるといつも怖くて涙が出た。異物感が苦手だ。その違和感のような感覚に耐えてしがみ付いて承太郎の耳朶を噛むと、余裕を無くしたような表情に変わった。耳噛むから煽られた?でもこれは違う、煽りたくて噛んだのではなく安堵を欲して噛んだ、乳飲み子と同じで何かを噛むと安心するからだ。承太郎はそんな事には気付きもしないだろう。食んだついでに承太郎の耳の中へと舌をねじ込むように這わせた。噛む時は違うけど舐める時は承太郎に感じて欲しくてやっている。それも、知らないだろうけれど、恥ずかしいから一生言わない。じりじりと太陽の照り付ける人が来るかも分からない屋上で、覆いかぶさってくる体を掴んで声を抑えた。欲求不満は間違っていなかったかもしれない。















2015.6.23









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