※「一匹狼のヒーローと内気なお姫様の恋愛事情」の承太郎視点です。








中学二年のクラス替えの時に俺は今年は花京院と同じクラスになった事に気付き、どうしようもなく嬉しい気持ちになった。花京院は小学校の時からの友人で、俺の初恋の相手で今も片想いをしてる奴だったからだ。丸々一年間違うクラスで、体育の時間にチラッと運動場にいるのを見かけたり、廊下ですれ違ったりするのみで殆ど顔を合わせていなかった。会話は丸一年途切れている。

小学校の時から賢くて優等生で、先生からよく褒められ男にしては綺麗な顔立ちをしていた花京院は当の本人は気付いていないが目立っていた。クラスの女の子も何人かが花京院くんはかっこいい、と噂しているのも目にしていた。その時から認めがたかったけど男の花京院が俺は好きだった。他の誰も好きになんてなった事はない、花京院だから好きになったんだと思う。少しも話をした事はなかったけど遠くからいつも見守っていた。

給食の時にデザートのさくらんぼを少し変わった食べ方をするのを観察したり、林間学校の時に可愛らしいストライプ柄の寝巻きで眠ってるのを見てどきどきしたりしていた。私服は緑が多い。可愛らしい瞳をしていて優しい声音で喋って煩いのが嫌いで花京院自身も騒いだりはしない。でもたまにすごく楽しそうにする瞬間があった。どこを取っても大好きだと思えた。

高学年に上がった頃に、僻みなのか、それとも話し掛けられないからちょっかいを出したりする延長線上の行為なのか花京院を虐める奴がいた。花京院は頭が良いから、すぐに言い返すとかやり返すとかそういう事はしないで様子を伺って適当に交わしてる風に見えた。ある日何を思ったのか、その中の一人の男子が拳を花京院に向けた。それがひどく気に入らなくて、花京院の代わりにそいつを殴ったら先生にえらく怒られた。

守ろうと思ったんだ。大好きだったから絶対に傷付いたりはしないように守りたかった。いつでも側に居て、俺の後ろについて来てくれたらいいんだ必ず守るから。その時はマジにそう思っていた。

そこまで回想にふけって居た時に不意に肩を叩かれた。顔を上げると頭に浮かべていた人がそこには居た。でも記憶の中とのギャップは成長期に大幅に伸びた身長と大人びて綺麗になった顔立ちだった。丸くて優しそうな瞳をしていたのが少し引き締まって、長い睫毛と合わさりとても綺麗な面立ちを際立たせていた。それで言葉を失う。花京院は見惚れて上の空になってる俺を不思議そうに見つめ返していた。居眠りしていた分のノートを見せてくれるという、相変わらず昔から優しい奴だと思った。

花京院はそれからよく俺に話し掛けてくるようになった。小学校の頃みたいに、俺の隣によくいるようになったのが嬉しくて独り占めしたくなる。誰にでもそれなりに愛想は良かったし、花京院は穏やかな雰囲気で誰からも好かれてたから独り占めは難しかった。

俺が好きな赤茶色の髪を何気無く撫でたりすると嬉しそうに頬を赤らめて笑ってくれる。そして笑いかけてくる時に必ず、寄り掛かるようにして肩を優しく叩くのはわざとか。わざとじゃないならそれはそれで直せと思う。自惚れる。勘違いしたくなる。他の男にもしてるならやめて欲しいと切に思う。

「はいこれラブレター」

「おめーからか?」

「そんな訳ない、承太郎面白いこと言うね?」

あっさりと笑いながら一刀両断されて多少ショックな気持ちにはなる。花京院からならとても嬉しいがそれ以外はどうとも思わない、面倒臭い。クラスのあまり話した事もない女子に呼び出され、校舎裏で告白されたのを見られた時も花京院は、「綺麗な子だったんだから試しに付き合ってみてもいいんじゃないか?」と意味不明な事を言う。お前が言うなと言いたい。俺が好きなのはお前なんだ、いい加減気付け。

花京院が日直の放課後、先生がホームルームの際に板書したものを丁寧に黒板消しで消していた。席に座って花京院の帰りを待ちつつ後ろ姿を眺めていると、花京院が振り返って落ち着いた声で俺に質問をした。


「なんで誰とも付き合わないの?」

それは花京院の事が好きだからだと言葉が喉元まで出掛かり、つっかえ、言おうと迷った言葉は溜息に変わってしまう。言わなきゃ伝わらないのは百も承知だが言ったら花京院はどんな顔をするのだろう。

不快か。
照れか。
嫌悪感か。
疑問か。

もし駄目だった時に冗談だと笑い飛ばせる程器用な性格はしていない。

「……好きな奴がいるからな」

「えっ、そうだったのか。同じクラスの子?」

花京院は驚いた声を上げて、きらきらと興味深そうな表情をしながら隣の席へと座った。この反応は脈がないと考えて妥当だろうが、先週からどうしてどうしてと俺が女と付き合わないのを疑問にして聞いてくるこいつをこれ以上誤魔化すのはもう嫌だった。だからと言ってお前が好きだなんていきなり言い出せずに黙って花京院の方を指差した。もうこれで察してくれないか。花京院は観察力も洞察力も人一倍秀でてる筈だろう、今まで気付いてない事の方がおかしい。


「……この席の女の子か。山岸さんだっけ?」

花京院が口にした見当違いな解釈に呆気に取られた。その表情は至極真剣に見える。

「………天然で言ってんのか?」

「天然?山岸さんは気は強そうだけど天然とかいうタイプではないよ」

その分析は正しいかもしれないがそもそもの前提が間違ってるだろう。ひどく焦れて、思わず花京院の髪、後頭部の辺りを掴み引き寄せた。

「天然はてめェだ」

花京院が瞳を瞬かせるのを、絶対に目を離すまいと至近距離で見つめた。頬が、僅かに紅い。この際気持ち悪がられるだろうとか、そんな事はどうでもよくなる。花京院に分かって欲しい。ずっとずっとお前だけを見て、心の奥底では大切なお姫様みたいに思っていた事を。誰にも取られたくないと幼心にもムキになっていたことを、お前は知らないんだろう?

「とぼけてんのか本気で分かんねーのかどっちだ」

「……君の前でとぼけた事なんかない」

はっきりと花京院はそう言った。それで俺は一番シンプルな方法で気持ちを伝えようと思って、柔らかい花京院の唇にキスをした。数秒後、おずおずと背中に回された腕に確信する。やっと俺だけのものになってくれた、弱くて強いお姫様。








2015.5/28









- 9 -

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -