高校最高学年となり、この学園に通うのも三年目となると、クラスの人たちや廊下ですれ違う人達に何ら変わり映えはなくて、今まで通り継続して、また平和な日々が始まるのだなあ、と窓の外を眺めながらあくびをかみ殺した。

新学期が始まり、クラス分けの表を見た生徒たちが次々と教室に入ってくる。ガラッと教室のドアが開くたびに誰が入って来たのかちらちらと横目で確認しては、またすぐに外へと意識を飛ばす。校門あたりに群がる生徒もまばらになってきた。
あの門を抜けて、先輩もこの学校に通ってたんだよな、と頬杖を突いて考えてみると、不思議な気分になった。
先輩が通っていた事実が、すごく遠い過去みたいだ。
先輩に、卒業しないでと泣きついたあの日が、まるでなかったように、立ち止まったままの僕に周りは構う事なく、僕一人を置いてきぼりにして、穏やかに時を刻んでいく。

ガラリ、と申し訳なさそうにドアが開いた。また誰かが入って来た。高校生活最後のクラスを共にする人が誰であっても、きっともう関係ない。この学校に先輩がいないなら、味気ない最後を迎えるのだろう。今誰が入って来たかなんて、興味ない。そう思って、今度は、誰が入って来たか確認する前に机に突っ伏した。

それなのに。
確かに教室の空気が変わるのを感じた。一瞬ざわめきがやみ、次いで、クラスメイトの囁きが聞こえてくる。
「転入生?」「声掛けてみようよ」「いい感じ」「おとなしそう」
なるほど転入生。変わり映えのしない高校生活に十分な、ちょっとしたイベントじゃん。興味が湧いて顔をつい、と上げるとその動作につられたのか転入生(仮)もこちらを見て、目が合った。

あ。思わず声になりそうになって、慌てて口を手のひらで覆った。

転入生なんかじゃ、ない。
僕は知っている。
あの自信がなさそうに下がった眉も、何かを言いたげに引き結んだ唇も、真っ黒な瞳を隠すように伏せた長い睫毛も。
僕が欲しかった先輩の隣には、いつもいつも、この人がいたから、知っている。

古森、拓、だ。記憶の糸を手繰ると、その名前が浮かんだ。

顔に深い影を作っていた長い髪の毛はばっさりと切られていて、表情もなんだか晴れ晴れとしていて別人みたいで、僕が知っている「古森拓」ではなかったけれど、間違いない。

いつも先輩の後ろにくっついていた僕を、きっと向こうも覚えていたのだろう。彼は眉を八の字にして微笑んだ。





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