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この日、久しぶりに僕たちは一つのベッドで眠った。眠りにつくまでたくさん話をして、ふと会話が途切れて目が合うたびに、たどたどしいキスをした。
むず痒くて、恥ずかしくて、泣きそうで、もどかしくて、幸せで。
朝目が覚めると、僕の世界は今まで通りになっていた。確かに見えていたはずの赤い糸は跡形もなくなっていて、いや、見えなくなった、という表現が正しいのかもしれない。 僕の顔のすぐ横に円の手があって、甲を撫ぜてみる。 好きだな、と思って頬にキスをして、それでも小さな子どもみたいにすやすやと寝息を立て続ける円が愛しくて、そのまあるい頭を両手で抱えた。腕の中で規則的に鼓動する心音に、胸がぎゅうと締め付けられて、いっそ痛くて苦しい。
人を好きになるって、いろんな気持ちが溢れてきて、大変だ。 円の耳朶にそっと唇を寄せて小さく囁く。
「円が、好きだよ」
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初めて「それ」を見た時、ついにぼくの邪な想いが具現化してしまったのだと思った。
指の付け根に結ばれた「それ」は何度払っても取れず、仕方なく行き着く先を辿ってみると、ぼくの赤い糸は、央の指に繋がっていた。
言い訳にしか聞こえないかもしれないけれど、本当は、言うつもりなんて、なかった。 それでも、自分の目にだけ都合よく映った赤い糸に、縋りたくなってしまった。 もしかしたら央も、ぼくのことを、と。
朝、ぼくを包むあたたかさに目を開くと、目の前で央の喉が緩やかに上下している。何故、央がぼくの頭を抱きかかえているのか、一瞬思考が停止した。 そうだ。央の手に触れたのも、央の唇からぼくが好きだと紡がれたのも、その唇と重なったことも、全部、夢ではなかったのだ。
はだけたシャツからは白い鎖骨が見えていて、寝息に合わせて動く身体を前にして、今まさにぼくは「待て」をさせられている動物のようだ。 央の寝顔を見上げ、目元あたりを撫でると「ううん」と小さく唸って、またすぐに気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。カーテンの隙間から漏れる光が央の頬をきらきらと照らし、胸が詰まって嗚咽が零れる。 こんなに、幸せでいいのだろうか。
好きだったのだ。それこそ、物心がつく頃からずっと、央だけを、想っていた。
我慢しているのに、無防備な寝顔を見せている央のことが少しだけ恨めしくて、上下する喉元に鼻を擦り寄せ、鎖骨の下あたりに唇で触れる。 舌を這わせてちゅ、と吸い付くとピクリと央の肩が揺れる。それでもまだ、央は目を覚まさない。 赤く色づいた部分を指先で撫ぜながら、目が覚めた後の央の反応を想像してくつくつと喉が鳴る。きっと、顔を真っ赤にして怒るのだろう。 力いっぱい、ぼくを抱きしめてくれる央に、愛しさが募る。 ぼくたちを繋ぐ糸はすっかり見えなくなってしまったけれど。 永遠に、ただ一人、あなたに、繋がっていればいいと願う。
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