好きなものは好きだからしょうがない!



「近藤さんに彼女が出来ないのって土方さんのせいですよねぇ」
「はぁ?何言ってんだ、てめぇ」
 呆れたように俺が言うと、総司以外の面々も「うんうん」と頷いたりそうでない者は苦笑したりしている。
 てめぇら否定しろよ。
 なんでかっちゃんに彼女が出来ないのが俺のせいなんだよ。
「だってそうですよ、土方さんが近藤さんベッタリだから近藤さんに彼女が出来ないですよ」
「それなのに自分はちゃかり彼女作ってるしなぁ」
「そうそう、しかもとっかえひっかえ」
 そう言う永倉と原田に「別に彼女じゃねぇよ、勝手にくっついてくるだけだ」と言ったら「うわ、聞いた?あの言い草」「もてる男は違うねぇ」などと言うので「うるせっ」と睨みつける。
「まぁまぁ、土方さん。土方さんは放っておいても女の人に好かれるのは分かってます。でも問題は近藤さんですよ」
 何が問題だってんだよ。
「だから、土方さんがあんまり近藤さんにくっついてばっかりだから近藤さんに彼女が出来ないっていう話です。このままずーっと彼女が出来ないなんて、近藤さんが可哀想じゃあないですか」
「俺のせいかよ」
「三分の一くらいは土方さんのせいだと僕は思いますけど」
 しれっと総司が言う。
「かっちゃんの良さがわかんねぇ馬鹿な女が多いだけだろ」
 ふん、とそっぽを向くと総司が嫌な笑みを浮かべた。
「土方さん、近藤さんに気のありそうな女の子が居てもすぐに追っ払うか、自分が声掛けて自分の方に気を向けちゃうじゃないですか。どう考えても土方さん、近藤さんに彼女出来るの邪魔してるでしょ」
「そ、そんなことねぇよ」
「そうですか?」
「そもそも、俺が声掛けたくらいでふらふら俺の方に寄って来るような女がかっちゃんの彼女になんてなれるわけないだろ!」
「わ」
「あ」
「開き直った」

「お、俺だってなぁ!そりゃかっちゃんに相応しい女だったらいつだって大歓迎だぜ!」
 そんな女がいないだけだろ!俺は悪くない!
「相応しいって、じゃあどんな女なら土方さんはいいんです?」
「そりゃ……顔はともかくだな、かっちゃんのことをちゃんと理解してて、優しくて芯がしっかりしていて、細かいところまで気遣いできて、料理も出来て、それから…………」
 思いつくことを並べていると、総司以下、他の面々も呆れた顔で俺を見ている。
「あんた、自分の彼女にはそこまで求めてねぇのに、なんで近藤さんの彼女になるとそこまで求めんだよ」
「そもそも近藤さんに相応しいかどうかは近藤さん自身が決めることで、土方さんじゃないでしょう」
 ぐ、と詰まる。
 正論だ。
 そりゃあ俺だって分かってる。確かにそう言われればそうなんだけど。
 でも!
 でもだ、ロクでもない女にかっちゃんがひっかかっちまったら困るだろ!?
 かっちゃんは人が良過ぎるくらいにお人好しだし、ゴツい外見の割に繊細で優しいところがあるし、だから俺が………!

「だから、そろそろ土方さんも近藤さんから乳離れしたらどうです?」
「……かっちゃんに乳はねぇよ」
「それは物の喩えです」
 そんなのは分かってる。



「…………………………」
「近藤さんのためですよ」













「………総司、最近、歳のやつどこか変じゃないか?」
「そうですか?」
「なんか付き合い悪いし、どっか元気ないような気がするんだが」
「土方さんも色々と忙しいんじゃないですかねえ」
「そうなのか」
「えぇ」










 妙だなぁ。
 と思ったのはなんだか歳が俺を避けているように感じ始めてから一週間。
 最初は気のせいか、とも思ったんだがどうも違う。
 何か俺は歳の気に障ることをしただろうか、と考えてみても思い当たることはない。
 総司は「土方さんも忙しいんじゃないですかねえ」と言っていたが、以前とはあきらかに違う遠慮というか、何か壁みたいなものを感じるのだ。
 どこか元気もないみたいだし、何か悩みごとでもあるんではないのだろうか。
 それなら俺に話せばいいものを、水くさい。
 今までは感じたことのない歳との距離を感じて、俺は少しばかりの寂しさを感じていた。


 それから、また数日後の夜。
 家で寛いでいるところに、久しぶりに歳からメールが来た。
 どこか浮き立つような気持ちでメールを開くと、”今から家に行ってもいいか?”とある。
”いいぞ、今日は皆出掛けてるから気兼ね不要だ”
 そう返して十分後くらいに再びメールの着信音。
”来た”
 素っ気ない文面を見て、玄関の方へ「鍵は開いてるから、入っていいぞ」と声を掛けると、玄関の扉ががちゃりと開いた。

「かっちゃん」
「歳、よく来たな」
 いつもなら勝手知ったる、とばかりにずかずかと入ってくる癖に今日は違った。
 やっぱりどこか変だな、と思う。
「先に俺の部屋に行っておいてくれ。茶ぁくらいしかないんだが」
「あぁ、すまねぇ」
 茶を淹れて部屋に行くと、歳はベッドを背もたれにするみたいに床に座って何か考えてる風だった。こんな時間にわざわざ俺のところへ訪ねてきたのもやはり何か悩みごとがあって、その相談に来たのだろうか。
「ほら、歳」
 声を掛けると、歳が顔を上げて「ありがとう、かっちゃん」とトレイからグラスを受け取った。
 俺も歳と同じように「よいしょ」と床に腰を下ろした。
 妙な感じだ、殆ど毎日顔を合わせているのに本当に久しぶりに歳に会えた、という感じがする。はは、と思わず笑みが零れると、歳が不審そうに眉を顰めた。

「なんだ、かっちゃん」
「いや、なんでもねぇよ。それよりお前ぇこそどうした、こんな時間に」
「うん……」
 歳らしくなく歯切れが悪い。
 グラスを両手で包み込むようにして持ったまま、視線を落とす。 
 そこで俺が「お前ぇ、何か悩みごとでもあるんじゃねぇのか?」と水を向けてみた。歳が瞠目するが、どうも俺は遠回しに物事を進めるのも苦手なのだ。思ったことがそのまま口に出てしまう。
「悩みごとがあるなら俺に話してみないか?少しは役に立つかもしれん」
「かっちゃん………」
 歳はグラスの茶を一口ごくりと飲むと、俺の顔を見詰めた。
 そして「かっちゃんは彼女、欲しいか?」と訊いた。

「彼女?」
 そりゃ欲しいか欲しくないかで答えたら、俺とて健全な男子高校生だ、欲しいに決まっている、が。歳の悩みは恋愛問題なのだろうか、そうすると俺は相談役としては頼りないというか、恋愛事に関しては俺なんかより余程歳の方が分かっているだろう。
「そりゃ、まあ、なぁ」
となんとも歯切れ悪く言うと歳は「…………俺、総司に言われて暫く考えてたんだけど」とぽつりと言った。
 ん?総司に何を言われたんだ、歳は。
 ここしばらく様子が変だと思ったのは総司に何か言われたせいなのか?

「俺、かっちゃんに彼女が出来るの、嫌だ」
 思い詰めたような表情で歳が言った。
「…………は?」

 そりゃあ一体どういう意味なんだ?
 よく分からん。
 そもそも歳は総司に何を言われたんだ?

「総司が俺にかっちゃんに彼女が出来ないのは俺がべったりくっついているからだって、」
 そうだったのか?
 というか、歳はそんなに俺にべったりしているか?気がつかなかった。

「俺、かっちゃんに彼女が出来たときのこと考えてみたんだ。………でも、俺、嫌なんだ」
「そりゃまた、なんでだ?」
「かっちゃんに彼女が出来たら、その彼女とあんたが一緒に学校行って、昼メシ食って、一緒に手ぇ繋いで帰ったりして、休みの日も二人でどっかデート行って、そんでひとつのジュースを二本のストローで一緒に飲んだりなんかして………」

 おいおい、なんか勝手に妄想が盛り上ってないか?
 というか、俺は彼女が出来たらそんなにイチャイチャするようなタイプに見えるのか?
 それでそんなひとつのジュースを二人で飲むようなことをする男だと思ってるのか、お前は。
 ちょっと心外だぞ、俺は。

「それで、かっちゃんとその女がキスしたり、セックスしたり、挙句の果てに結婚して、子どもが出来て、きっとかっちゃんの子どもだからすっげぇ可愛いとは思うけど!で、郊外の新興住宅地に家なんて買っちゃって、『あなた、いってらっしゃい』『パパーいってらっしゃい!』って言われて行ってきますのチューしたりなんかして、」

 どこまで続くんだその妄想は。

「おい、歳」
「かっちゃん!」

 ガバッ!
「うわ、お前ぇ、いきなり抱きついてくんじゃねぇよ。茶が零れる!」
 幸いにもグラスの中はとうに空っぽで、硝子の透明な器だけがころころと傍らに転がった。
 そして俺より細いとはいえ、歳に力一杯抱きつかれてそのままの勢いで。グラスと同じように二人して床に転がってしまう。
「いてぇ、」
 俺は床に頭をぶつけてしまったが、よかった、歳はどこもぶつけてないようだ。
「歳、」
 大丈夫か、と言いかけて、口を噤んだ。
 歳が俺の身体の横に手を附いて怖い位に真剣な表情で俺を見下ろしていた。

 ちょっと待て、なんだかお前ぇ、変じゃねぇか?
 そして、俺もなんだか変な感じがする、胸がざわついて、鼓動が早くなる。
 どうしたんだ、一体。

 「かっちゃんが、俺よりほかの女のことを好きになるなんて嫌だ、」
「歳」
「俺じゃない、ほかの奴がずっとかっちゃんと一緒に居て、ずっと一生、かっちゃんの傍で暮らしていくなんて嫌だ」
「歳、」

「かっちゃんが誰か他のヤツのものになるの嫌だ。俺がかっちゃんの一番がいい。俺はかっちゃんと一緒に居て、かっちゃんと話して、かっちゃんの一番近くに居たい」

 ちょっと待て、落ち着け。
 分かったから、そんな泣きそうな顔をするな。

「俺を選べよ、かっちゃん」
 見下ろす歳の紫暗の瞳がきらきらと光っている。
 ぎゅ、と唇を噛んだその表情は怒っているような、泣き出す前の子どものような、そんな顔だ。

 ………俺は昔っから、お前のこんな表情に弱いんだ。
 お前がそんな顔をしたら、何としてもどうにかしてやりたくなっちまってついお前の我儘でも何でも聞いちまうんだよなぁ。

「分かったから、歳。落ち着け。俺はずっとお前の傍にいる」
「ほんとに?」
「本当だ」
「…………………これからも、ずっとだぞ。ほんとにいいのか、かっちゃん」
「お前から言い出した癖に、何を今更」
 この期に及んで、言いだしっぺのお前の方が躊躇してどうする。

「俺は結構酷いことをあんたに言ってる。これから、あんたに彼女を作らないでくれ、結婚しないでくれ、幸せな家庭を作らないでくれ、子供を作らないでくれって言ってんだぞ。酷いことを言ってるだろ?」
「俺はお前を選ぶよ、歳」
「……………そんな簡単に言っていいのかよ」
 なんでだろうな。
 お前が描く俺の”幸せな未来”を俺も思い浮かべてみたけれど、それと今のお前の泣きそうな顔を天秤にかけたら、容易くお前の方に傾くんだ、俺の気持ちは。

「お前がいないと、きっと俺は幸せになれないんだ」












「…………なんだか前より酷くなってない?」
「……………………」
 僕の言葉にはじめくんは無言で肯定の意を伝えてきた。左之さんも新八さんも同じように顔を見合わせると苦笑した。
「なんだよ、てめぇら」
「土方さん、近藤さんといちゃつき過ぎなんじゃないですか?」
 一時期、土方さんは近藤さんに遠慮しているように見えたのにこれじゃあ元通り………というか前よりヒドイ。
 こんなんじゃあ絶対に近藤さんは一生彼女なんて出来っこないだろうな、と確信するくらいヒドイ。彼女どころかこれじゃあ女の子が寄ってくることさえ難しそう。
 しかし、土方さんは僕の言葉にふふん、と鼻で嗤って
「よく考えたら、そこらへんの女より絶対ぇ俺のほうがいいに決まってるだろ」と言った。
「は?」
「顔もスタイルもいいし、かっちゃんのこと一番分かってやれてるし、好きな相手には結構尽くすタイプだし!」
 性格がいい、と自分では言わない辺りが一応土方さんも謙遜しているのだろうか。
「……………どういうことですか?」
 結論。

「俺が絶対かっちゃんのこと、幸せにするから!」

 なっ!?と同意を求めるように振り返った土方さんに、近藤さんは相変わらずの人好きのする穏やかな笑顔を浮かべている。
「近藤さん………土方さん、あんなこと言っちゃってますけど」
「はは、頼もしいな、歳」
「任せとけ、かっちゃん!」
 それでいいんですか、近藤さん。
 と思ったけれど、近藤さんは嬉しそうに笑う土方さんを見て、これまたにこにこと楽しそうに笑っていて「俺は歳が笑っていればそれでいいんだ」などと言うものだから。
「ほんっと近藤さんは土方さんに甘すぎ……」
 僕はもう溜息を吐くしかなかった。





<作 : chihiro様>





読んだ頂き、ありがとうございました!
そして素敵な企画に参加させて頂いてありがとうございました!
お目汚しすみません。
土方さんは近藤さんのことが好き過ぎる……というお話でした………
公式で夫婦ですよね。
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