A to Z


 物事は0に始まり、0に終わる。なんてことない、面白味もない数字の変化だ。
 個と個、1と1がそこに存在していたとして誰が得をするのか。いや、1と1が2になり、そこから増える――例えるならば夫婦が子を作り、3となるような――単純な数字の羅列になりかねない。
「――と、思ったときに絶望したんですよねェ」
 呆れ半分、面白半分。子供騙しの様な話を続ける男に馬鹿か、と投げかけたのも致し方がないことなのかもしれない。
 沖田総司が手に負えない『子供』だということはよくよく知っていたが、これはもう『理解の範疇』を超えているといったものだ。
 簡単に言えば、「だからどうした」の世界である。
 彼が言うには、人間は単純な数字であり、個体数を増やした所で結局最後は0に戻るのだそうだ。
「例えばね、土方さんと沖田総司ってやつが――まあ、僕なんですけど。僕が結婚したとしましょう。ひどく非生産的ですし、そもそも認められませんね。あはは、そんな不審そうな顔しないでくださいよ。傷つくなぁ。
 まあ、したとする。僕と土方さんの間に子供はできません。子供が出来ないってことは、そこから1が増えない。僕と土方さんは武士で、きっと最後は死ぬだけですよね?」
「縁起でもねぇ」
「まあ、聞いてください。僕が先に死んだとする、」
「総司」
 付け加えた言葉に、「聞いて」と拗ねたように彼は言う。
 小さな子供が一生懸命話してるにしてはやけにロマンに溢れ、同時にこの会話こそ非生産的なものではないかと位置付けてしまう錯覚が胸の中に渦巻いている。
「そしたら僕+土方さん=2が1になりますよね。ああ、何言ってるって、ひとつとふたつの違いだ。そしたら、土方さんは――まあ、後は追わないか。どーせ、『悪かったな……総司、俺がお前の仇を取ってやる』ってなるだけですよねェ――めでたく寿命で死ぬってわけだ。そしたら0ですね」
 物事は0で始まり、0で終わる。ぐるぐると輪廻がそこに存在しているとオカルトちっくなことを笑いながら言う馬鹿な子供に「何が言いたい」と吐き捨てれば、おかしそうにけらけらと笑った。
「別に、なんてことないですよ。ただ、僕が土方さんより先に死にたいって話です」
「殺してやろうか?」
「いいえいいえ、殺してなんて、思いませんよ。殺されるより殺したいし愛されるより愛したい。なんて感じですかね」
 莫迦、と吐き出せば「はい」と笑って彼は言う。
 小さな言葉のやり取りに、なんてことない話にへらへらと嗤って。
「じゃあ、僕の2になって下さいよ。そしたら、僕が殺してあげる。一緒に死にませんか?」
 ――なんて、ただの戯言だった。


 A to Z
(はじまっておわる)





<作 : やか様>





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