法廷で響き渡る彼の声。私はこの声の虜になってしまっているのだろう。初めて傍聴に行ったときから、忘れられなかった。成歩堂龍一さん。私は貴方に恋をしてしまいました。

裁判が終わり、法廷から沢山の人が出ていく。今回も成歩堂さんの勝利だった。証拠品をつきつけられて、ピンチになっても逆転して勝利を掴み取る。相変わらず毎回ヒヤヒヤされるが、私はその彼に見入ってしまう。傍聴に行く度、彼の魅力にどっぷりハマっていく。そして、いつの間にか恋心を抱いていたのだ。一目惚れと同じようなものだと思う。
私は勇気を振り絞り、成歩堂さんに告白しようと決心した。成歩堂さんからすれば私なんて赤の他人だし、よく傍聴に行っているとはいえ成歩堂さんは私に気づいてるわけなんかない。でも、付き合えなくてもいいから、気持ちだけを伝えたかった。こんな乙女心を抱いたのは高校生の時以来である。
成歩堂さんが法廷から出たので、私はその後を付ける。控え室に行くのだろう。角を曲がりドアの音がしたので、控え室に入ったのだと確認すれば、深呼吸をする。鼓動が速まり、緊張してきた。彼が控え室から出てくるまで待つ間、心の準備を整えるのに必死だった。ドアが開く音がして、足音が徐々に近付いてくる。きっと成歩堂さんだ。彼が角を曲がって、私との距離は3メートル程度まで近づいた。廊下を歩く成歩堂さんに勇気を振り絞って声を掛けようとしたら、何故か私の目の前で止まり、「あの、」と声を掛けられた。

「よく傍聴に来てくれてる方ですよね。…………貴女に一目惚れしました。急に失礼かも、しれないんですけど、」

照れ臭そうに俯いて、彼の口が¨付き合ってください¨と動いたのがわかって、私は手に持っていたバッグを落としてしまった。


2012 03 17