「最低。もう別れよう」
「………」
「なんとか言ったらどうなのよ」
「言い訳、になるだろう?」
「あっそ。やっぱり私のことなんかどうでもよかったんだね。……さよなら」


走った。とにかく速く、速く。全速力で、無我夢中に走った。こんなに頑張って走ったのは何年ぶりだろうか。
私は悪くない。だって響也が浮気したんだから。あんなに好きって、愛してるって言ってくれたのは、やっぱり嘘だったの?それとも私を他の女と重ねてたの?…もう今は、どっちでもいいや。こんなこと、考えたくなんかない。早く家に戻ろう。
家に着いたら、脚は痛いし息が辛いし…成人になってやっぱり学生時代とは違くて、体力無いなあ、と実感する。
部屋のドアを開けたら、響也と撮った写真やガリューウエーブのグッズ、数々の響也に貰った物…自分で飾ったんだっけな。気分は最悪だ。
全部捨てよう。そう思って、写真やグッズを全て床に落とす。グッズはジャラジャラと金属音のするものが多くて、また嫌な気分になった。響也のことを、忘れよう忘れようと思って写真を手にとり、破ろうと…したんだけど。
手が震えて…クシャクシャになる写真を、破くことができない。どうして?私は響也なんて嫌いだ。もう嫌い、大嫌い。だったら破ってもいいじゃないか。どうして破くことができないの?

「きょう、や…きょうや……きょうやああああ…」

私の目から溢れ出る涙は、何なのよ。



響也と付き合えることになって、すごく嬉しかった。毎日が楽しかった。仕事で忙しくても、必ず時間を作ってくれて、いろんな所に連れて行ってくれて…ファンに見つかりそうになって、走り回ったり…楽しかった。本当に、本当に大好きだったのにな。響也が浮気していたところに遭遇なんてしたくなかった。知らずにいたかった。知らないほうが幸せだったのに。私は響也にとって、何だったんだろう。響也は…遊びだったのかな。


私は響也を愛していた。だから涙が流れたんだ。自分で言ったけど、別れることが悲しくて。だから写真を破けない。物も捨てられない。嫌い、だと思っていたけど

私はまだ、響也が好きなんだね。


貴方を、忘れられるわけがない。


2012 04 30