*信さんが独身



「それは…告白だと、受け取っていいのかな」
「はい…もちろん、です」

信さんが持っていたカップを静かにデスクに置いて、独特の、低い声で言った。こちらを向いた信さんは頬を赤らめたわけでもなく、落ち着いていて、すごく冷静だった。大人の余裕、ってやつだ。でも私だってもう成人だというのに…私は心臓がバクバクうるさくて、落ち着いてなんかいられない、緊張している。なんだかズルい、と思った。
信さんの返答を待つ。恋人という仲に、なりたいけれど…信さんは優しいから、きっとハッキリは言わず、優しく断るんだろうなあ。そう考えると、この待っている時間が苦しくて苦しくてたまらない。すごく息苦しい。別に、想いが伝えられればそれで良かったんだから。答えに期待なんか、していない。だからもう、優しくなくていいから、ハッキリでいいから早く返事をしてほしい。この苦しみから解放してほしい。期待なんて、していないから…。
「……………ぐすっ…」
私の頬を涙が伝う。どうして涙なんてでるんだろう。最初から、どうなるかなんてわかりきっていたはず、だったのに――

「ど、どうしたんだい、名前さん…」
「……ぐすっ…早く、は、早ぐ…断っでくだざい…」
「……………君は何を言っているんだ」
「…え?」

信さんが、私を抱きしめた。優しく、包みこむように。信さんと密着している、と考えると顔が急速に熱くなっていった。どうして、どうして…わからないよ、信さん。何故あなたが私を抱きしめているのか。だって信さんは、断るはずだ。私の告白を。そして、私が謝ってその場を去って、どこかで泣いているはずだったのに…。これじゃ違うじゃないか。涙も枯れていって、泣くことができない。全てが違う。これじゃあ…期待、しちゃうじゃないですか。

「私が名前さんに告白されて嬉しくないはずないし、断るはずなんて…無いだろう?私だって、君を今まで…想って、いたのだから」
「し…信さん」
「恋愛など器用ではないし、年寄りで君と年の差だってあるが…それでも良いというのなら、歓迎…するのだが」
「も、もちろん!えっと…よろしく、お願いします…」
「ああ、よろしく」
「信さん…愛してます」
「…私も、だ」

色々と違っていたのは、結果がそもそも違っていたからなんだ。こんな幸せな結果が待っていただなんて、全く思っていなかった。信さんの背中に腕を回し、抱きしめ返す。信さんのぬくもりが、すごく心地よくて…ずっとこのままでいたい、と思った。


2012 04 24