「む…、名前、どうしたのだ」
「ふふ、御剣さん、あったかい」
「寒いのなら…室内の温度を上げるが」
「ううん、これでいいの、このままがいいの」
小説を読む御剣さんの背中に抱きついてみた。御剣さんは嫌がらず、私に気遣ってくれる。本当に自慢の彼氏だ。この人より良い人なんて、世界中どこを探したっていないと思う。御剣さんのうなじを指でなぞる。少しピクッと反応した。ついでにうなじにキスをしたら、御剣さんがこちらに振り向いた。眉間に皺が寄っている。それは怒っているのではなく、困っている、といった感じだ。こちらをじっと見つめる。本を静かに机に置き、椅子から立ち上がって私のことをポン、と軽く押し倒した。後ろにはソファーがあり、皮のソファーが倒れた私を優しく受け止める。皮のソファーは、ひんやりとしていて、それが心地よかった。御剣さんも私を跨いで私の顔の横に手をついてソファーに体重を預ける。誰かが入ってきてしまったら、確実に誤解される体勢である。いや、まあ今はそういう雰囲気だから、誤解されてもあながち間違いではないんだけど。私の顔にかかる御剣さんの髪の毛がくすぐったい。間近で見る御剣さんの顔はすごく整っていて、綺麗だ。そんな御剣さんに見入っていたら、御剣さんが私の唇を人差し指でなぞる。

「先程から君は…誘って、いるのか」
「…さあ、どうでしょうね」
「……君はうなじフェチか」
「うーん…手フェチ、ですかね」

御剣さんの手を握ったら、少し照れくさそうに微笑んだ。
私の両腕を掴み、口を塞がれる。今日は、いつもより大胆、というか…いつもの御剣さんとは違う気がした。

「名前…そんな可愛い顔をされてしまっては、制御が、効かなく…なる」
「………私は…、そんな御剣さんも、見てみたいな」
「!…本当に君は…。もう、知らないぞ」

勢いよく首筋に噛みつく御剣さんはまるで狼みたい。こんな御剣さんは、見たことがなくて、ぞくぞくする。もっと、貴方のことを、貴方の他の顔を知りたい。そう思って、既に解かれた腕を御剣さんの背中に回して、私からも唇を押し付ける。私は貴方に溺れている。奥深くの海底に沈められて一生外に出られない、くらいに。でも私にはそれは苦しくなくて、随分心地よいものだった。ずっと溺れていたいと思うくらいに。




2012 04 04