「先生、あの、そのカップ…」
「ん、ああ…すまない。間違えてしまったようだ…」
「い、いや、大丈夫…ですけど、」

栞を挟んで本を閉じ、のどが渇いたので紅茶を飲もうと、カップがあった場所に手を伸ばす。でもカップの感触がなく、手は空気だけを掴んでいた。すると隣で、紅茶を啜る音。見やると、先生が私のカップで飲んでいた。勿論先生のカップはちゃんと置いてある。先生に声をかけると、眠たげな声で返答する。間違えて私のカップを手にとってしまったみたいだ。
疲れてるのかな、なんて思ったけど、よく考えると…、これは、間接キス…とやらになるのではないだろうか。そう考えたら、顔が熱くなった。

「…名前、顔が赤いよ。熱でもあるのかな」
「え、あ…いや、そういうわけでは」
「ほら、頬が熱いよ」
「ひゃっ」

ぺたり、と先生の手が頬に当たる。すごく先生の手が冷たくてびっくりした。
というか、先生に触れられていることで益々体温が上がっている気がする。

「先生、あの、大丈夫、ですから」
「…君はいつも危なっかしくて、無理したりするから放っておくわけにはいかないよ」
「な…子供扱いしないでくださいよ」
「私はいつも、」

先生は私の頬から手を離して、背中に腕を回す。抱き締められてる、と気づいたときには、先生の顔が、すぐ横にあって。
耳元で、囁かれる。

「君が心配なんだ、他の男に取られたりしないか、ね」
「!……それは、ありません、よ」
「どうしてだい?」
「せ…先生しか、見てませんから…」

私は何を言ってるんだ。恥ずかしすぎる。耳元から離れて私の正面にいる先生と、目を合わせられないので俯いた。
すると先生は、俯く私の顎を持ち上げた。唇には、柔らかい感触。

「…嬉しいな」
「ん、……せ、先生!急に、」
「名前が口を付けたカップじゃ、物足りなくてね」
「!…もう……」

やっぱり恥ずかしすぎて、先生に見つめられるのに耐えられず、先生の胸に頭をぽん、と預ける。
すると、先生が私の頭を優しく撫でる。本当に、私はいつも先生のペースにのせられてばっかりだな、と思う。
でも、幸せだからいいか。



2013 01 27
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