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NOVEL
▼初心


また今日もひとつ、いつもの声が響き渡る。

「しゃーーーくーーーー!!!」
「…げっ」

凌牙がその場を後にしようとすると遊馬は駆け寄ってくる。息を切らしているあたり、走ってきたのだろう。凌牙はただ彼を見つめているが、遊馬はにこっと笑みを零す。そんな遊馬の笑みにドキっとした。ドキ?ドキってなんだ?
他愛のない会話を交えながら歩いて行く。沈黙もあったが、そんなことはどうでもよかった。
……近い。そう思いながら凌牙はすたすたと歩く。すると遊馬も隣を歩いてきて。別に遊馬の歩幅に合わせているわけではない。凌牙自身が好きなように歩いているだけなのになぜこんなにぴったりしているのだろう。こいつといると調子狂うのかもな…と思いつつポーカーフェイスをする。さっきよりドキドキ鳴る音が速い。すっと目を閉じ自分の胸に手を当ててみる。ますます鼓動が高鳴るばかりだ。ドキドキと自分の音が伝わってくる。

「…ク!シャーク?」

はっと気がつくと遊馬が凌牙の目の前にいて。つい自分の世界に入ってしまったようだ。急に凌牙が立ち止まったからだろうか。遊馬はすごく不思議そうな顔をしていて、どうかしたのか?と聞かれればなんでもねぇよとぶっきらぼうに告げた。また再び歩き出す。すると遊馬がぐっとシャークの腕を掴んで阻止する。

「…なんだよ?」
「ひる…」
「…弁当忘れたのかよ?」
「ち、がう」

凌牙は遊馬が掴んでいる腕を振り解きたかったがそうもいかないようなので静止した。
遠くでお昼休みの余鈴が鳴り響いている。

「昼!一緒に食べたいなって…思って…」

凌牙は少々驚いたが、ふっと鼻を鳴らすと、遊馬が掴んでいる手を放してそのまま立ち去る。

「屋上に来いよ」

そのままひらひらと手を振りながらその場を後にし、先に屋上へと向かう。
遊馬はぽかんと立ち尽くしたが、嬉しそうに教室に戻っていくのだった。
振り返ってそれを見た凌牙はふと笑みを浮かべながら歩いて行った。


[2011.7.24]


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