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NOVEL ▼この年で迷子は恥ずかしい ハートランドで買い物をしてから数時間。もう日が暮れてきてよい子は帰る時間、なんて言われるだろう。あちらこちらで街灯や車のライトが一斉に点きだす。遊馬はすたすたと歩っているがなんだかおかしい。モノレールの駅へ行くにはここを曲がってこっちへ行って…?あれ?と思いながら歩いて行くがどうもおかしい。 『遊馬、ここは先ほども通らなかったか?』 「え、な…ななな何言ってんだよアストラル…気のせいじゃねーの?」 遊馬は冷や汗を垂らしつつ、はははと笑ってごまかす。こっちでいいんだよこっちで!などと言いながら進んでいく。アストラルもついて来るが少々あきれた顔をしている。 『いや、私はここを通ったと思っている。何故ならそこの吉●家というお店を3回見ている。』 「はは……」 『遊馬、君はもしかして…』 「うーるーせーーーっ!!」 そう、遊馬は迷子になっていた。もう中学生なのに恥ずかしい…と内心思った。だがハートランドは高層ビルも多く、この都市構造をすぐに理解することは不可能に等しい。遊馬は自分が迷子になったことを認める。アストラルは笑ったりせず、どこかのお店の近くに行って現在地を確認しようと提案した。明るいところに出て情景を確かめるためだろう。 「うーん…どうしよう姉ちゃんは呼べないしなぁ…」 『なら、シャークという少年に聞いてみたらどうだ?』 「そっか!」 ごそっと鞄からDーゲイザーを取り出す。そしてシャークと登録してある番号を見つけると電話をかけた。出てくれればいいけど…とそわそわしながら応答を待つ。1コール、2コール、トゥルルルとは音が流れるもののなかなか凌牙は出ない。そっか!とは言ったもののシャークとはほとんど連絡をとらない。用事で通話出てくれないかもしれない、もう帰れないのかもしれない、そう思うとじわっと目の奥が熱くなった。ガチャッという音が鳴り、どうしたという声が聞こえた。シャークの顔が遊馬のD-ゲイザーに映っていた。一方凌牙のDーゲイザーには遊馬の困った表情が映り、彼女の声を始めに通話が始まる。 「あ、シャーク…!ど、どうしよう…俺……」 「…落ちつけ、一回深呼吸しろ。…何があった?」 遊馬は涙目になっていたのを堪えて見せる。凌牙は相変わらず仏頂面だが、声はひどく落ちついていた。凌牙の冷静さに伴い、遊馬も少し落ち着くと徐々に事情を話し出した。モノレール駅に戻れなくなったこと、姉を迎えに呼べないことや自分が今どこにいるのかもわからないことも。 「話は分かった。なら、そのまま南に向かって歩け」 「え、南にまっすぐ?」 「そうだな…ファーストフードの店があっただろ。そこにいろよ」 そう凌牙に言われると遊馬はほっとした。通話を切る直前、凌牙が微笑んでいたように見えたのは気のせいではない。そしてアストラルを見て、にっこり微笑むとあっちだな!と言っていつもの遊馬に戻ったようだ。アストラルもにこりと笑みを零すが、この凌牙という少年…一体何者なんだと内心思っていた。そして遊馬について行くと無事着くことができた。ファーストフード点のドアを押して開けるとカラン、とベルが鳴る。店員の元気ないらっしゃいませこんばんはーという声が店内に響く。どうやら凌牙はまだ来ていないようだ。座って待ってると、向かい側の席に急に人が。 「遊馬」 「シャーク…!」 帰るぞ、と言って手を引っ張ってきた。遊馬は思わずよろめくが凌牙が来てくれたことが嬉しく、うんと笑顔を零した。 [2012.02.09] | |||||