ぞっとする威圧感に、足を止めた。夜も深い中、ひとりきりで廊下を渡っている時のことだった。心臓がどくどくと高鳴り、背筋にイヤな汗が流れる。
「・・・・・・なに・・・?」
そう呟いて意味もなく振り向いた瞬間、遠くから何かが爆発したような轟音が聞こえた。そして一拍も置かずに、聞き覚えのある咆哮が響く。
「・・・・・・これ・・・はっ・・・!!」
私は急いで街が望めるバルコニーへと走った。階段を駆け上がり、劇場ホールのバルコニーへとでる。そこにはすでにダガーも来ていて、信じられないと言う表情で空を見つめていた。
バルコニーから見える空には、荒れ狂ったように飛び回り咆哮をあげる竜王の姿がある。そして竜王はアレクサンドリアの街を破壊していた。
「ダガー・・・!」
「・・・・・・ユイ・・・これは・・・」
「・・・・・・おそらく、クジャだよ・・・。バハムートだけじゃなくて・・・・・・魔物もいるみたいだね・・・」
イーファの樹での闘い以降、バハムートはダガーの元に戻ってきていない。私もその存在を強く感じることはできなくて・・・・・・。
どうやってクジャがバハムートを手に入れたのかは分からないが、クジャ以外には攻めてくる相手が想像つかない。
「ガーネット様!」
「あれは、バハムートですね・・・・・・。ベアトリクス、急いで皆を集めてください!」
「はっ!皆、すでに集結し、ガーネット様の命令をお待ちしいたしております!」
走り込んできたベアトリクスさんは敬礼と共にそう言った。その言葉にダガーは自分の胸の前で両手をぐっと握る。
「・・・・・・行こう、ダガー」
「・・・・・・トット先生は・・・・・・」
「・・・・・・城下町に下りていったけど・・・・・・」
「・・・・・・ご無事であることを・・・祈りましょう・・・・・・」
今、トット先生はいない。兵を動かすのもその方策もダガーが決めなくてはいけない。今までと違って、自分が動くのではなく、誰かを動かさなくちゃいけないと言うのは覚悟がいるものだろう。
「・・・・・・行きましょう!」
ダガーとベアトリクスさんと一緒に、ホールへと向かった。そこにはプルート隊がびしりと並んでいた。ベアトリクス隊はイーファの樹での闘いで大多数が犠牲になっていて・・・いまは、城を回せるほどの人数しかいない。
今日は確か、警備のためにかなり街に出ていたはずだ。城に残っていたのはプルート隊だけだったのだろう。
「ガーネット様、ご覧の通り、いかような命令にも我々は迅速に対応いたします。何なりとご命令ください」
「・・・・・・命令・・・・・・ええと・・・・・・」
ダガーにちらっと視線を向けられて、私も考える。こういう時ってどうすればいいのかしら。考えられるとしたら・・・・・・。
「情報収集、救助、援軍要請、防衛のための反撃・・・・・・かな?」
「・・・・・・そうね。誰にしてもらえばいいのかしら・・・・・・ええと・・・・・・」
ダガーは一歩前にでると、プルート隊の面々を見ながら、少し黙る。緊張しているのか、肩が震えているけどあまり時間はない。迅速に行動しなければ。
「ブルツェンとコッヘルは情報収集を、ワイマールとハーゲンは城下町へ向かい国民の救助、バイロイトとラウダはシド大公殿下に援軍要請文書の送ってください。トジェボンとメルゲントハイムは大砲を撃つ準備を行ってください!」
ダガーの命令でプルート隊の面々が行動を始める。ダガーは大きく深呼吸をしながら、前をぐっと見据えていた。そんなダガーにスタイナーさんとベアトリクスが頭を垂れる。
「お見事です、ガーネット様!」
「さあ、ベアトリクスよ次は我々の番だ!!」
スタイナーさんとベアトリクスさんは入り込んだ魔物を掃討すると言って、城下町に下りていった。突然に城内は静かになるけれど・・・・・・敵の攻撃は未だに続いている。
それにしても・・・・・・クジャは何のためにここに来たんだろうか。
侵略や支配が目的なのだろうか・・・?いや、アレクサンドリアの支配が目的なら王族を殺しに来る方が楽だろうに。向こうにはバハムートがあるんだから・・・・・・一気に城に攻め込んできたって・・・・・・。
「・・・・・・・・・」
「ユイ?どうしたの?」
「・・・・・・ダガー・・・私、クジャを探してくるわ」
「え!?」
「きっと何か企んでる・・・・・・。クジャの目的が分からない限り、こっちが踊らされるわ!」
プルート隊の人に情報収集に行ってもらったけど、戦況の情報しか拾って来れないだろう。クジャを倒すか・・・撤退させないと・・・・・・。
「それならわたしも・・・・・・」
「ダガーはここにいて!兵の人たちも来るだろうし!」
「でも・・・・・・」
「大丈夫!絶対に戻ってくるから!」
私はダガーにそう言い聞かせると、城外へと走り出した。城の池には緊急時には橋が架けられている。それを管理しているベアトリクス隊の人が驚いた顔で私を見たけど、すぐに向こう側の兵士に連絡して橋を架けてくれた。
「ありがとうございます!」
「お気をつけて!」
私が池を抜けて、城下に入ると街の人が逃げまどい、魔物が蔓延る酷い有様だった。街の外の高台への避難は始まっているだろうけど・・・・・・明らかに人手が足りない状態だ。
私は街の人を助けに行きたいと思ったけれど、クジャを探さないといけないと街の中へと進んでいく。
人々の悲鳴を聞きながら、クジャを見つけて・・・・・・それでどうするんだろうか。
真意を問うの?
今度こそ倒すの?
どちらにしても、クジャがいるなら行かなければ。
このまま放っておくなんてことはできるはずがないんだから。
**************************
街に降りた我々を出迎えたのは人々の悲鳴とアレクサンドリアを我が物顔で跋扈する魔物であった。その数の多さに、物量の差を感じさせられるがここで引くわけにもいかない。
「覚悟は良いか、ベアトリクス!」
「今宵、この命が露と消えようとも私は一向に構いませぬ!」
「良い心掛けだ!行くぞ、ベアトリクス!!」
ベアトリクスと共に、民を脅かす魔物へと走る。見たこともない魔物であるが、こんな奴らに負けるわけにはいかない。
魔物へと応戦している合間に、プルート隊が民の避難の誘導をしているのを確認できた。
うむ、使命を全うしているようでである。民の避難誘導、救助はプルート隊に任せ、我々は避難を危険なく行えるように魔物の討伐を優先させよう。
幾度、魔物と戦っただろうか。その数は減少を見せず、増えているような気さえする。いくらベアトリクスといえど、肩で息をしているようだ。
「大丈夫か?ベアトリクス!」
「ええ、私なら大丈夫です。それよりも・・・・・・。それよりもスタイナー、あなた少し手傷を負ったのではありませんか?」
「ふふふ、自分はあれくらいの攻撃など、何とも思わぬわ!」
ベアトリクスが心配げな表情で言ってくるので、こんな時だというのに笑いがこみ上げてくる。あの程度、かすり傷でしかない!
「また来たぞ!」
少しの会話も許さんというかのように、魔物が湧いてくる。この先の通路にも逃げ遅れた民がいるかもしれない。活路を作り出すためにも、邪魔立てはさせぬ!
魔物を倒して、倒して、倒して前に進む。
それでも敵の攻勢はやむ気配がない。
「このままではラチがあきません。いちど城へ引き返しましょう!」
「いや、このままでは姫さまに顔向けできん!」
ここで城に戻っても籠城戦になるだけだろう。だが、相手は自由に空を飛ぶ召喚獣を有している。籠城は意味をなさない。それに、臣民を見捨てて籠城などとはお優しい姫さまが行うはずがない。
姫さまが望まれるのは、アレクサンドリアを、国民を守ること!
その姫さまのお優しい心を守るのもこのスタイナーの使命!
「自分は姫さまとアレクサンドリアと、そして・・・・・・。そして、ベアトリクス!お前も必ず守ってみせる!!」
「スタイナー・・・・・・」
守りたいものを守る!
それが自分の騎士道!
その心を最後まで貫かねば、死んでも死にきれぬ!
「まだ気は抜けぬぞ・・・!!」
立ちふさがる魔物に剣を向ける。
自分もベアトリクスも連戦続きで披露は計り知れない。
剣先も、度重なる戦闘に刃こぼれを起こしている。
それでも逃げるわけにはいかない。
「ベアトリクスよ、お前と言葉を交わせるのは、もしかすると、これが最後になるかもしれんぞっ!」
「もとより覚悟はできてます!」
騎士として生きるからには、主君、そして国民のために命を落とす覚悟はできている。それはベアトリクスとて同じであろう。
敵に囲まれ、背後に感じるベアトリクスの気配に、守りたい相手が戦場に立つという苦しさを覚えるが・・・・・・ベアトリクスとて騎士!
その志、覚悟は自分と同じ!
「もはや、お前の顔を見ることすらかなわぬが、最後にこれだけは伝えておこう!」
「いいえ、もうその先の言葉は言わないでください!」
「いいや言わせてくれ!!」
ベアトリクスを生かすためには、自分は己の命を惜しまぬだろう。己の内にある心を、せめて伝えておきたい。
「いけません!その言葉は私たちが再び生きて会うことができた時にっ!」
その言葉を耳にした直後、魔物が飛びかかってくる。
こころ内を伝えること、今は叶わぬようだ。
ならば、悔いなど残さぬ為に・・・・・・必ず生きなければ!
負けるわけにはいかない。
そしてベアトリクスも負けるはずがない。
己と、己が尊敬する相手を信じずにどうするというのだ。
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「明日の幸せを願って人は眠る・・・・・・。昨日の不幸をすべて忘れてしまうために・・・・・・。そして喜びに満ちた夢を見ることを願う・・・・・・。そう・・・つらく苦しい現実を忘れてしまいたいから・・・・・・。・・・・・・至って静かな、いつもの夜になるはずだった・・・・・・。新しい女王の誕生を祝い、アレクサンドリアの街も喜んでいたね。折角だからと僕も祝いの宴を用意したけど・・・・・・どうだったかな?歓喜の炎がアレクサンドリアを焦がす宴。バハムートが奏でる鎮魂歌は美しいと思わないかい?」
「・・・・・・思わないわね」
私の言葉に、クジャはくすりと笑うとゆっくりと振りかえった。誰もいない城門広場。クジャはそこにひとりで佇んでいた。周りには誰もいない。ここにひとりできたってことは・・・・・・クジャはやっぱり、ひとりで行動しているのかもしれない。
「僕が行る場所まで駆けつけるとは・・・・・・君は相変わらず行動的だね。けど無鉄砲だ。僕には君の行動を制限できるっていうのに」
「・・・・・・呪いに距離って関係ないんでしょ?じゃあ、城にいようがあなたの前にいようが変わらないじゃない」
「そうかなあ・・・。城でできることも色々あるだろう?例えば・・・・・・お姫さまがおかしなことをしないように監視するとか」
その言葉に私は目を細めてクジャをみた。どういうことだろうか・・・・・・。クジャは、ダガーに何かをさせたいってこと?
「クジャ!あなた、何の目的でここに来たって言うの!アレクサンドリアを征服に来たって訳じゃないんでしょう?」
「もちろん、そんなものには興味はないよ。僕の理想はもっと高いんだ。ここは通過地点でしかない」
通過地点?理想?
ということは・・・・・・ブラネ女王をけしかけて戦争を起こさせたのもその一端っていうこと?
考えろ。クジャがブラネ女王を戦争に走らせて・・・・・・何を得たかを。
霧の大陸の国力の低下?
でもブラネ女王はクジャを警戒してた。
クジャにブラネ女王の方針を左右できるような発言権はあったのかしら?
クジャは最終的にブラネ女王が自分に挑んでくるのを予想していて、それがシナリオ通りだと言っていた。
だからクジャの筋書きとしては、間に誤差があっても、ブラネ女王が自分に挑んで来さえすれば良かったんじゃ・・・・・・?
あのイーファの樹の闘いでクジャが得たものはなに?
「・・・・・・もしかして、召喚獣を狙ってきたの?」
「・・・・・・へえ?」
「ダガーが持ってる召喚獣を狙ってきたのね!バハムートだけじゃ満足できなくて、イフリートやシヴァまで欲しいって言うの!?」
ダガーの手元にはブラネ女王に取られた召喚獣達が戻ってる。クジャはそれまで狙って、アレクサンドリアを攻撃したんだわ。
「アレクサンドリアを追い込んで、ダガーに召喚獣を召還させる気ね!」
「ふふふっ・・・・・・」
「何がおかしいのよ!」
くすくすと笑うクジャに、噛みつくように言えば、クジャは口元を押さえてこっちをみた。相変わらずの不気味な余裕に、私は後ずさりしそうになる。
「君の推理はイイ線いってるけど・・・・・・惜しいね。僕はイフリートやシヴァなんて雑魚はいらないんだ。もっと強く美しいものが欲しい・・・・・・。そう、竜王バハムートよりも・・・・・・」
「バハムートより・・・・・・?」
バハムートは召喚獣の中でいちばん強いんじゃないの?
イフリートやシヴァより強力な召喚獣・・・・・・?
この前、ダガーが手に入れた・・・・・・リヴァイアサンのこと・・・?
「ふふふっ、見るといい。どうやら始まったようだ」
「・・・・・・え・・・・・・?」
そう言ってクジャが指し示した方角をみる。そこにはアレクサンドリア城があって・・・・・・。
「・・・・・・なに、あれ・・・・・・?」
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「う、うん・・・・・・」
ふっと目を開けると、何故か床の上に倒れいた。どうしてだろうと、直前までの記憶を思い起こす。
アレクサンドリアが攻撃を受けて・・・・・・兵に指令を出して・・・・・・スタイナーとベアトリクス、ユイが城下町へと向かって・・・・・・それから・・・・・・。
それから、そうだわ。
これからどうしたらいいのかと思いながら、お母さまの肖像に祈っていたら・・・とつぜん意識が・・・・・・。
「音楽が聞こえる・・・・・・どこから?」
いつから聞こえていたのだろう。それにしてもこんな時に誰が音楽を・・・?楽隊のものでもいたのかしら・・・?
「上の方から・・・・・・?」
城といえどもいつ危険になるか分からない。誰かいるなら、避難をさせなくては・・・・・・。
そう考えて、音楽が聞こえる方へと足を向ける。階段を上り、ホールを抜けて・・・・・・塔の方から聞こえるわ。
不思議・・・・・・吸い寄せられるかのように足が進む。階段を上り、塔の外へとでる。塔の外へ出れば屋上だけれど・・・・・・。
「この場所は・・・・・・?」
目の前に突如、階段が現れる。まるで小さな要塞のような・・・・・・そんな雰囲気を持つ建物が目の前に現れた。
でもそんなものはこの城の中にはないはずなのに。
私はその階段を上っていき、いつしか開けた場所へとでる。相変わらず音楽は聞こえてくるけれど、奏者などは見あたらない。
「この音楽はどこから聞こえてくるの・・・・・・?」
そう思って、正面を見ればアレクサンドリアの街が一望できた。バハムートに攻撃され、魔物が蔓延り、逃げまどう民の姿が見える。
「わたし、こんなところで何をしているのかしら・・・・・・。お母さま・・・・・・ユイ・・・・・・ジタン・・・・・・」
思わずそう呟いて、ハッとする。
本当に何をしているのか。ここでこんなことをしていてもダメなのに、心まで弱気になっている。
「いいえ、もうみんなに頼っていてはだめ!わたしはアレクサンドリアの女王としてこの国を守らなければならないんだわ」
そう己を鼓舞するが、結局はどうしたらいいのか分からない。
あの城下町のどこかで、ユイはクジャを探していると思うと・・・・・・何もできない自分が歯がゆい。
女王として国を守るって・・・・・・いったい、どうしたらいいのかしら・・・。
***********************
月明かりもないような暗闇の中、遠くの大地が赤々と輝いている。その光景を睨みつけて、オレは今にも飛び出していきたい気持ちをなんとか抑える。
飛空艇の上からは見えるのはアレクサンドリアだ。街は火の手が上がったのか、炎と黒い煙が見える。早く早くと心は逸るけど、俺の気持ちとは裏腹に、飛空艇はちっとも進まない。
「この船はやけに揺れるのう・・・・・・」
「仕方がないブリ・・・・・。なにせワシがこの体で作った飛空艇ブリ・・・・・・。あちこちにユルミとかタルミとかがあってもおかしくないブリ」
「おかしくないブリ・・・ってこの船、すんごくやばいんじゃねえのか?」
スピードが出ないだけじゃなく、安全面までやばいかもしれないのか。こんなことならガルガントの方が良かったんじゃないか・・・・・・?
「ふむ、ワシの勘が正しければ・・・・・・アレクサンドリアにたどり着くのがきっと精一杯だと思うブリ!」
「大丈夫なのかよ!」
アレクサンドリアに無事に着いてくれるならまあ・・・いいけど。その前に墜落なんてことになったらしゃれにならない。
そんなことを思ってたら、ふらふらした足取りのビビが近づいてくる。口元に手を当てていて、俯いている。
「ジタン・・・・・・ボク・・・・・・なんだか・・・ちょっと・・・・・・気分が・・・悪く・・・なってきた・・・・・・」
「ビビよ・・・・・・船室で休んで来い・・・。そうすりゃ、少しでも気が休まるだろう・・・・・・」
「それが良いブリ」
「う・・・・・・、うん、分かった・・・・・・」
サラマンダーに言われてビビが船室の方へと歩いていく。オレはその姿をちらっと見て、また船の外に目をやった。さっきよりもアレクサンドリアは近づいているが・・・・・・まだ到着には掛かりそうだ。
・・・・・・ユイは無事なんだろうか。
ダガーを守るっていって、無茶してなきゃ良いけど・・・・・・。
このアレクサンドリアへの攻撃、間違いなくクジャのヤローだろう。
何をしでかすかわからない。
頼むから、ユイ達には無事でいて欲しい。
「エーコ・・・・・・?」
「なぁに?」
「いま、何か光らなかった?」
「えっ?」
離れたところからビビとエーコのやり取りは聞こえていたけど、今のオレはそれどころじゃなかったから気にしてなかった。けど、急に後ろから眩しい光が発せられて、驚いて振り返る。
振り返ると、エーコの持っていた宝珠が白く光り輝いていた。
「ダガー・・・・・・?」
「どうした、エーコ・・・・・・。ダガーがどうしたって?」
「いま・・・ダガーの声が聞こえたの・・・」
どういうことかと思ったが、船体が大きく揺れる。慌ててバランスを取り、転倒するのは防いだ。
「おいおい、そんなワケないだろ。それよりも、この船・・・・・・」
「この光は、もしかして・・・・・・。もしかして、聖なる審判!?」
「聖なる審判?」
エーコは船が揺れるのも何のその、訳の分からないことを言っている。いったい、どうしたっていうんだろうか。
エーコはそのまま船首へ行ってしまうが、船はいつ揺れてもおかしくない状態だし、空の上で風も強い。
「おい、ちょっと待てよ、落ちるぞ!」
「召喚士が呼ばれている・・・・・・。いまこそがアレクサンダーの聖なる審判!」
エーコはそう叫ぶと、吸い込まれるように船首から飛び降りてしまった。慌てて船首からのぞき込むとアレクサンドリア城のだだっぴろいバルこーにのような場所に、白い光に包まれてエーコが降りていくのが見える。
なんだか分からないが・・・・・・無事に下に降りられたようだ。エーコはダガーの声がしたと言っていたから・・・・・・ダガーもそこにいるんだろうか?ダガーがいるということは、ユイもそこに一緒にいるんだろうか?
そう思って姿が見えないかと下をのぞき込んでいたら、船体がまた大きく揺れた。しかも今度の揺れはやたらに長くて・・・・・・小刻みにずっと揺れている。
「お、おい・・・・・・シドのおっさん・・・」
「うむ・・・・・・墜落するブリ」
「えええええええ!?」
「どこかに緊急不時着させるブリーーーー!!」
「不時着って・・・・・・街の中にか!?そんな場所ねーよ!」
そう叫んだって落ちていく飛空艇は止まらない。オレたちは急降下していく飛空艇にしがみつくしかなかった。
**********************************
空の上から光り輝くなにかが降りてくるのが見えた。まるで、お話に出てくる天使が降臨するときの光景のよう・・・・・・。そう思ってその光を見つめていると、わたしの胸元・・・・・・ペンダントからも同じ色の光が生まれた。
なにが起こったのか理解するよりも前に、空から降りてきたのが・・・・・・エーコだということに気が付いた。
咄嗟に受け止めようと手を伸ばしたけど、エーコはまるで宙に浮いているように・・・ゆっくりと私の前に降り立った。
「エーコ!どうしてここへ?」
「船に乗っていると、ダガーの声が聞こえた気がしたの、だから・・・・・・」
「そうだったの・・・・・・。わたしもエーコがそばにいるような気がして
そうしたら体のまわりに光が集まって・・・・・・」
状況が飲み込めないけど、なんとか分かる限りを伝えようとしたとき、さっきと同じ光がペンダントから発せられる。
白く光り輝く・・・・・・眩しすぎる光。
「そう、この光よ!」
「ダガー!この光はね、あたしたち召喚士の運命の光なのよ!」
「運命の光?」
「そう、運命の光!この光こそが4つの宝珠に隠された力なのよ!この光がね、召喚士の周りに現れた時、その召喚士は聖なる召喚獣に呼ばれているの!さあダガー!召喚士の運命をまっとうしなければ!」
エーコは頬を紅潮させて、興奮気味に言った。召喚士として育ったエーコには召喚士の運命というものが分かるのかもしれないけど・・・・・・私にどうすればいいのかさえも分からない。
「でもわたし・・・・・・、どうしたらいいか分からないわ・・・・・・」
「大丈夫よ、エーコの言うとおりにして!」
エーコはそう言うと私の手を引いて移動した。エーコは目を爛々と輝かせているけれど・・・・・・このあと、一体何が起こるのかしら?
「まず手を合わせるのよ!」
けれどエーコの言うように今が召喚士の運命の時だというのなら・・・・・・私もそれに従うしかない。クジャに対抗できるかもしれないのだし・・・・・・。
私は同じ目線になるよう、エーコの前で膝を着くと小さな手に自分の手を合わせた。その瞬間、胸の奥がざわめくような感覚になる。
「こうかしら?」
「そう!そして心の中こうつぶやくの」
我らの守護神よ 大いなる守護神よ
此の地の光が途絶えし 此の地に闇が訪れし
我らの守護神よ 聖なる守護神よ
神につかふる者の祈りを聞き届けたまえ
**********************************
アレクサンダーがイベント召喚獣なのが辛い。
この後、FF13まで使えなかった気がする…。
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