黒のワルツを退けたから、鉄馬車は問題なく走っている。
さっきの召喚魔法の件に関しては、なんだかうやむやになってあの後はなにも聞かれなかった。
……聞かれても困るんだけどね。なんで使えるのかって分からないし。
なんでか知らないけど、声が聞こえて……気づけば魔法の詠唱みたいなのをしていて、それでもって使えるって感じだもの。
……実は、狩猟祭でイフリートを呼び出したときの詠唱をしてみたけど…なにも起こんなかったんだよね。
使えるときと使えないときがあるのか……。
そもそも、なんで使えてるのかも疑問だし。
本当にあれはよくわからない。
でも……シヴァと思われる声は『主』とか言ってたよね。
『主の傍にいる限り』って……どういうことだろ。
少なくとも、私が『主』っていうわけじゃないけど……。
「そろそろ到着かしら?」
ダガーの言葉に、私も外の景色を見る。
だいぶ山の高さが低くなってきてるから……麓は近いと思う。
「……気づいていたんスね?アレクサンドリアがブルメシアに侵攻したこと」
マーカスさんの言葉に、私はぐっと息を呑んだ。
ダガーは、相変わらず外を見てる。
「あたりまえでしょ?スタイナーとは違うわ」
「なんだか……ちょっと変わったっスね」
「わたし?ことばづかいのこと?」
「いろいろっス」
「そうね……いろいろあったから……」
そう言ったダガーはどこか遠い目をしていた。
……その目が、前よりも現実を見据えているのが分かる。
現実を見据えて……悲しみを捉えているのも分かる。
ダガーは変わったね。
きっと、強くなったと思う。
でも……強さと同時に、悲しみも手にしてしまった。
それが……すごく寂しい。
「あ、そうだ!そう言えば……」
「なんスか?」
「変わったといえば、もう戦闘だって慣れたし、足手まといにはならないわよ」
「なんのことっス?」
「ブランクを助けなきゃ!トレノで白金の針を探すんでしょ?」
窓の外を見ていたダガーは笑って振り返り、そう言った。
その笑顔に、私はちょっとだけ笑って、マーカスさんを見る。
マーカスさんは、私とダガーを見比べて……大きく溜息をついて、少しだけ笑った。
「しかたがないっスね……。ダメっって言ってもついて来そうっスし……」
「じゃあ決まりね!トレノまで一緒に行きましょ。トレノってどんなところなのかしら……」
「(やっぱり……あんまり変わってないかもしれないっス……)」
ダガーはうきうきした様子でそう言ってる。
その姿に、私はちょっとだけ安心した。
……ずっと悲しい気持ちでなんていてほしくないものね。
ダガーには笑っててほしい。
……アレクサンドリアに行っても、笑っていてほしい。
ダガーが笑ってくれるなら、私……なんでもするよ。
□□□□□□□
「姫さま、ここが貴族の街トレノであります」
スタイナーさんの言葉に、私とダガーは辺りを見渡す。
もう、空はとっぷりと暗いけど……この街は明かりが多く灯ってる。
貴族街っていうくらいだから、もっと貴族っぽい人が多いかと思ったけど……柄の悪そうな人も多い。
「まずはどこの貴族の家に白金の針があるのか情報収集しなきゃね」
そういいながら、ダガーは辺りをきょろきょろしてる。
うーん……大丈夫かな?ここ、かなり治安が良くなさそうなんだけど。
「マーカスさん。ここってもしかして、治安悪い?」
「よくわかるッスね。ここは貴族なんて一部だけっス……。夜が長いっスから、盗賊にはもってこいの場所っス」
「貴様らのような者どもがこの夜の都をおとしめたのだ!」
「治安の低下は社会情勢の不信とかが原因の場合もありますよ」
社会情勢が悪くなると低賃金とかで収入が減って、生活苦から犯罪に手を染めたりするものね。
盗賊なんてやりたいからやってる人なんて……そんなにいないんじゃないかしら?
……タンタラスは……どうだか知らないけど…。
「な、なんと!ユイ殿!!それではブラネ様の治世に問題があるとでも…!!」
「い、いえ……!そういうわけじゃ…」
し、しまった!ブラネ女王の政治手腕を批判したみたいなこと言っちゃった!
そんなつもりじゃなかったんだけど…!
「そんなのどうでもいいっスから、早いとこ白金の針を貴族の家からかっぱらって来るっス」
「かっぱらう、とは何と下衆な!このスタイナーの目の黒いうちはそのようなことはさせないのである!」
「そんなこと言ったって、それならどうやって白金の針を手に入れるっス?」
「ええい、黙れ黙れ!とにかく盗みを働くようなことは、断じてこのスタイナーが許さんのである!」
「勝手についてきて、人の商売にケチつけないで欲しいっス」
あわわ。
マーカスさんのおかげでスタイナーさんの意識が私からそれたけど言い争いが……!!
というか、かっぱらうとかどーのこーのをあんまり大声で言わないほうがいいんじゃ…!!
「なにを!そもそもであるな……」
「ふ、二人とも落ち着いてください…!!」
「……行っちまうっスよ」
「え?」
ぽつりとマーカスさんがそう呟いた。
なんのことだろうと私が首を傾げれば、隣にいるスタイナーさんが大声で怒鳴る。
あ……耳が痛い。
「待たんか!まだ話は終わっておらんっ!」
「いや、俺が、じゃないっス」
「何を訳のわからぬことを!姫さま、やはりこのような者と行動をともにするのは……!!!!!」
いない。
ダガーが……いない。
「ひ、姫さま!?」
「ちょ……ダガーが……」
スタイナーさんはキョロキョロとしながらあちこちでダガーを探してみてるけど……ここにはもういないみたい。
いつの間に行っちゃったんだろう?
……大丈夫かなぁ?だいぶ治安が悪そうな街なのに……。
「ユイさん、ちょっと来てほしいっス」
「え?」
マーカスさんに声を掛けられて、私は振り返った。
マーカスさんは私に向かって手招きすると、奥の路地へと行ってしまう。
ちょっと来てほしいって行ってたけど……どうしよう?
「とほほ……。ま、またでありますか……。騎士になって18年……。
誇りあるプルート隊隊長の自分がどうしてこのような目にあわねば……」
スタイナーさんを振り返ってみたけど……まだなんかぶつぶつ言ってる。
ダガー……大丈夫かな?スタイナーさんも探してくれるよね?
私もとりあえず、ダガーがどこに行ったかだけはサイコメトリで探すとして、体はマーカスさんについていこう。
□□□□□□□
「どこに行くんですか?」
「酒場っスよ。そこでちょっと会って欲しい人がいるっス」
マーカスさんの後について、私は暗い路地を歩いていた。
そこは、なんだかボロボロの家ばかりで……全然、貴族街には見えない。
子供たちが、搾取されているから貧乏なんだって言うような話をしていて……。
なんだか悲しい気持ちになったけど、現実としてこんなものなんだろうなと思った。
私の世界もそうだもの。
資本主義なんていってるけど、資本主義なんて、搾取される側があってこそ成り立つものだわ。
低賃金でも働いてくれるような発展途上国がなくなれば、資本主義はなくなるものね。
でも……やっぱり、こういうのを目の当たりにすると寂しいね。
「………貴族街なのにこんな貧乏人がたくさんいて驚いてるっスか?」
「ううん。裕福な人の割合なんて、全体の1パーセントが普通じゃない?……驚かないよ」
「ユイさんて、見た目に反して現実主義っスね」
「……そうですか?」
「そうっス」
マーカスさんはそう言って、これまたオンボロな建物の前で立ち止まった。
きっとここが酒場……なんだよね?
会わせたい人って誰だろう。
「ちょっと待ってて欲しいっス」
マーカスさんはそう言うと、酒場へと入っていった。
私は宿屋の外で、トレノの街をぼんやりと見つめる。
……ダガー……とりあえず元気に歩いてるみたいだけど……。
心配になってきちゃったなぁ……。
「ユイさん、入って欲しいっス」
ギィっと古い扉が開く音がして、振り返った。
そこには、当然だけどマーカスさんが立っていて、私は呼ばれるがままに後に続く。
「……誰に会うんですか?」
「すぐに分かるっス」
そう言って、マーカスさんは階段を下りていく。
誰だろうと、少しだけ緊張しながら私も階段を下りれば……ランプの明かりに照らされながら、大柄の男の人がそこにはいた。
……この人…って確か……。
「ボス。ユイさんを連れてきたっス」
「おお!わざわざ来てもらってすまねぇな!」
ガハハと笑ったその人は、やっぱり……舞台で王様をやっていた人だ。
ボスって呼んでいたから、タンタラスのボスさん、一番偉い人だよね。
「こ、こんばんわ……。ユイです」
「おお。俺はバクーだ。ジタンやブランクが世話になったらしいな」
「いえ……。私ばっかり、お世話になりました」
ジタンにも、ブランクさんにもなんにもできてない。
迷惑ばっかりかけてた。
「ふうん……。まあいい。実はちょっとおまえさんに聞きたいことがあってな」
「なんですか?」
「ジタンのことだ」
バクーさんにそう言われて、私は一瞬だけ体が強張った。
けど、ふっと息を吐いてなんとか動揺をやり過ごす。
そもそも、動揺すること事態がおかしいもん。
そんなの……動揺する必要ないし。
「はい。知っていることならお答えします」
「おう。まずは魔の森抜けてからの大体のいきさつを話して欲しい」
「……はい」
バクーさんに請われるがまま、私はいままでのことを話した。
魔の森でどうしてブランクさんが石になったのか、氷の洞窟のことに……ダリの地下のこと。
狩猟祭が終わったあとに、ブルメシアの兵士さんがやってきてブルメシアが襲われていることを知らせてくれたこと。
そして……ジタンたちは、ブルメシアに旅立ったこと。
全部を話した。
「……なるほどな。ジタンはブルメシアに行っちまったか」
「はい。……その後のことは……分かりません。生きてはいますけど……」
私はそう言って、そっと自分の髪にあるリボンに触れた。
ジタンのリボンタイ……。これが、ジタンの安否を教えてくれる。
なにも、嫌な感じもしないから、ジタンは間違いなく生きているわ。
「生きてはいる?そんなのなんでわかるんだ?ジタンが行ったのは戦地だぞ」
「……わかります。ジタンは、死んでません」
バクーさんは髭をいじりながら、私を見つめてる。
……確かに、なんでわかるんだって言いたくなるのも頷ける。
普通、そんなのわかるわけないことだもの。でも、私は超能力で……ジタンの持ち物であるリボンから、安否がわかるの。
それだけは、事実だから……。
「なるほどな。ブランクが言っていたのはこういうところか」
「え?」
バクーさんの言葉に、私は首をかしげた。
ブランクさんが言っていたって……なんのことだろう?
「いや、なに。ブランクのやつが言っていたんだよ。ユイって女は、どこか不思議なところがあるってな。
知らないはずのことをまるで見ていたことのように言うって……そんな風に言ってやがった」
そう言われて、ブランクさんにそんなところ見せたかなと思い返してみるが……思い出せない。
でも、ブランクさんと会話したのなんて数えるほどしかないのに……わからない。
「で?お前さんとお姫さんはジタンに置いていかれたのに、どうしてこんなところにいるんだ?」
「それは……」
「折角、お姫さんを危険にさらしたくないとジタンは置いてったってのに、なんでそれに逆らってお姫さまを連れ出したんだ?」
バクーさんの言葉に、私は一瞬だけ顔を下に向けたけど……ダメよ。
自分で責任取るって決めたんだもの。下を向いたらダメ。
「……私にしたいことがあったからです。そして、ダガーにもしたいことがあって……目的地が同じなので協力してここまで来ました」
「したいことか。それは、身を危険にしてまですることなのか?」
「ダガーの身をってことですか?」
「どっちもだよ。お姫さんもだし、お前さんもだ。ジタンはお前たち二人供、危険にさらしたくなかっただろうからな」
バクーさんの言葉は耳が痛い。
分かっていることだし、今までだって考えてたことだけど……人に正面きっていわれると苦しい。
ジタンの気持ちを裏切ったのは分かってる。
きっと、私たちがいなくなって……ジタンは怒っただろうし……優しいから、心配してる……と思う。
でも、あの時……ううん、いまだって。
私、じっとなんてしてられない。
クジャを探して、クジャを止めなくちゃって思ってる。
戦争とか起きてて、それにクジャが関わってるとか、そういうのもあるけど……そうじゃなくて……。
クジャが、ジタンに対して憎悪をもってる。
それが一番気になって仕方ない。
私、知ってたけど……薄情な人間なの。
たくさんの人が遠くで死んでるんだと思う。
でも、私が気になるのはほんのすぐ傍にいる人のなの。
近くにいる大切な人たちを守りたい。
狭量な人間だよ。ほんのすぐ傍の周りの人しか見えない。
でも……、それでも、守りたいって強く思う心が止められないの。
大切な人がいなくなるのはいや。
もう、そんなの嫌だ。
私より先に、みんな死なないで。
わたしより、長生きして。
そればっかり、考えてる……。
「……ジタンは、関係ないです」
「関係ない?どういうこった?」
「ジタンが、いくら私たちに安全な場所にいてほしいって思っても、それはジタンの願望です。私たちの願望じゃない。
ジタンが私たちを連れてかないって決めたのは、ジタン自身で……そうしたいならそうすればいい。
でも、私たちがジタンに従うかはジタンが決めることじゃない。私たちが、自分で決めることです。」
「……置いていくっていうのは、ジタンの勝手な願望だってことか?」
「ジタンが心配してくれるのは嬉しいですけど……それに従って、自分のしたいことを我慢したくなかったんです。
私、もう……なにかを我慢するのはやめたいんです。自分のしたいことをします!
その先が……どんなに辛くても、甘んじて受けます!自分で決めたこと、やったことには自分で責任を取ります!」
そうだよ。
私、もう止めたんだ。
昔みたいに……昔って言っても一週間も経ってないけど。
自分の世界にいたときみたいに、なにもしないで受け入れて……ただ、呼吸するだけだった毎日。
お母さん達のくれた命なのに、ただ無為に過ごして……なにかをなそうとか思わなかった。
自分から、なにかしたいとか、変えたいとか思わなかった。
でも、この世界に来て思ったの。
私……皆を守りたい。
だから、戦うの。
その先が、たとえどんなに辛いことでも、みんなが無事に笑ってくれてたらいい。
ジタンは私のことを『生きる覚悟がない』って言っていたけど……命を投げ出すことで皆を助けられるならそれでもかまわない。
私がかなえたいのは、皆が生きて幸せでいてくれることだもの。
……そこに、自分がいなくてもいいの。
自分もいれたら……素敵だし、嬉しいけど、多くは望まないよ。
本当に、やりたいことひとつ。
そのためなら……私はなんだってする。
「……そうかい。責任取るってことは……お姫さんはてめえで守るつもりなんだな?」
「はい。ダガーは、絶対に守ります」
「そこまで覚悟があるなら俺から言うことはもうなにもねえよ。おい、マーカス」
バクーさんはそう言うと、壁際に立っていたマーカスさんに声を掛けた。
「なんスか?」
「話は終わった。仕事やるぞ。準備しろー」
「白金の針を盗みにいくんスね?」
「おお。さっさと行って帰って来い」
バクーさんがそう言うと、マーカスさんは頷いている。
あれ…?白金の針を盗みに行くって……ダガーたちは?
「あ、あの!ダガーも私も、一緒に行くっていってたんですけど……」
「お姫さんにやらせるわけにはいかねぇだろ。タンタラスとはなんにも関係ないしな」
バクーさんはそう言って、椅子に深く座った。
私は慌ててマーカスさんを見たけど、マーカスさんはバツが悪そうに頬をかいているだけ。
え?ちょ、ちょっと…!このままじゃ、連れてってもらえないの!?
そ、それは嫌だよ!私だって、ダガーだってブランクさんを助けたいんだもの!
「ちょっと待ってください!私たちもブランクさんを助けたいです!」
「だから、お前さんたちはタンタラスとは関係ないだろうが。全くの部外者を作戦に参加させられるかってんだ!」
そう言って、話は終わったから帰りなというバクーさんにむっとした。
関係ないって……そりゃ、私たちは部外者だけど……。
……うん。部外者だね。だったら、部外者じゃなくなればいいんでしょ!!
「……わかりました」
「おう。わざわざありがとな」
「私をタンタラスの一員にしてください!!」
「な、なにを言ってるんスか!?」
マーカスさんが驚いた顔で私の方に駆け寄った。
その顔はあまりに驚きに満ちてて、私はさらにむっとする。
「本気です!入団試験があるなら受けます!」
「いやいや!ボスって強いんスよ!ジタンさんだってなかなかボスには……!」
「負けません!気合と気持ちと根性で勝ちます!!」
「そんな!むちゃくちゃっスよ!」
私だってムチャクチャな理論だってわかってる。
でも、私にあるのは気持ちだけだわ。
ううん……。サイ能力なんて、気持ち次第だもの。
やってやるって、真剣に思えばどんなことだってできる。
死に物狂いにやれば、いままでできなかったことだってできたんだもの!
私がそういう気持ちでバクーさんを見つめていれば、バクーさんは椅子に座ったまま動かない。
……バクーさんにもふざけてるって思われてるのかな?
ふざけてるって思われてるなら……私が真剣だって認めさせるだけだわ。
私、真剣にブランクさんを助けたいんだもの!
「……タンタラスに入るってことは……ボスである俺の命令は絶対だ」
バクーさんの低い声が、部屋に響いた。
マーカスさんはその声に、邪魔をしないようにか、一歩足を引いて後ろに下がった。
私は……バクーさんの言葉を聞き漏らさないように、真っ直ぐにバクーさんを見つめる。
「もし俺が……お姫さんを見捨てろっていうような命令をだしたら……お前さんはどうする?」
「タンタラスを抜けます!!」
即答だった。
自分でも凄く早い返答だなと思うくらいに、考える前に言葉が出てた。
でももう言っちゃったし、ダガーを見捨てるとかありえないし、そんなこと言われたら抵抗するの当たり前だし。
うん……間違ってない。自分の気持ちには偽りはないよ。
バクーさんは微動だにせず、こっちを見ていたが……突然ににっと笑った。
「ガハハハハ!!言い切りやがったな!」
「ぼ、ボス…?」
大声で笑っているバクーさんに、マーカスさんが声を掛けるけど……バクーさんは笑いっぱなし。
ど、どうしよう。どうなっちゃうのかな?
そんな風に私もちょっと不安に思っていたら……バクーさんは椅子から立ち上がって私の前に来た。
大柄の体のバクーさんが目の前に来ると、威圧感がある。
バクーさんは大きな手を私の目の前に持ってくると……ぽすんと私の頭の上に乗せた。
「よし!ユイはいまから、タンタラスの一員だ!!」
「え!?」
「えええ!?ぼ、ボス!?いいんスか!?」
「ガハハ!こんな肝の据わった奴なんてそうそういねえだろうが!」
ガシガシと頭を撫でられて、頭が横にシャッフルされる。
うう……ちょっと目が回る。
「……よし。そうと決まれば、ユイ!お姫さんを探してきな!白金の針を盗みに行くぞ!」
「……はい!ボス!!」
「おう!いい返事だ!」
私は勢いよく返事をして、その場を後にする。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
なんか、勢いでタンタラスに入っちゃったけど……どうしよう。
いや、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
入っちゃったものはしょうがない。
今はそう、白金の針を手に入れてブランクさんを助ける方が先よ。
そのためにはまず、ダガーを連れてこなくちゃ。
私はなんだか興奮気味のまま、一気に階段を駆け上がるとトレノの街へ出た。
貴族と盗賊が住まう街。
華やかさと、闇が一緒にある街。
盗賊には、もってこいの街。
ああ、天国のお父さん、お母さん。
ユイは今日、盗賊になってしまいました。
でも、全然後悔はしてないよ。
自分で選んで進んでる道だもの。
「……よし。とにかくダガーを探そう」
私は勢い込むと夜の街へと走り出した。
いつかこの夜の空気が、似合うようになるのかと思いながら。
*************************************************************
まさかの夢主がタンタラス入り。
前から伏線は張っていましたが……ね。
貴族の養子はやっぱり眼中に無かったみたいです。
これで、タンタラスの人との絡みも増やせそうです。
……というか、どんどん夢主がたくましくなっていく…!!
←_124/170