夢小説・長編 | ナノ
そうして糸は綻び始める@

花火が上がる音に、ああ、狩猟祭なんだなと思いながらオレは真新しいシルバーの刃を確認した。
これは狩猟祭にでるからには装備の見直し必要だろうと思って昨日、城を後にした時に買ったものだ。

なかなかにいい買い物だと思っていたのに……一晩経ってみれば、こいつは殆ど衝動買いだったかもしれないと気付いてしまった。
いや、購入じたいは問題ない。実際に狩猟祭に出るなら装備の確認は必要だし。

ただ、必要なことではあったけど昨日のオレはイライラしてて……なんでもいいから気を紛らわせたくて……。
これを買ったとき、あんまり刃とか持ちやすさを考えずにぽんと買ってしまったんだ。
だから、こんな狩猟祭の直前になって使いやすいかを確認してる。使いづらかったら、前のメイジマッシャーを使うべきだしな。

「うーん……問題ないかな」

まだ持ちはじめだからか、少しだけ違和感があるが問題ないだろう。
狩猟祭でちょっと使えば馴染むくらいだと思う。

そう考えながら、またなんだか暗い気持ちがもやもやとオレの中に巣くいだして…。

「………あーーー!!いつまでもぐちゃぐちゃ考えるな!!」

がしがしと頭を掻いて、オレは宿を出た。
ビビはとっくに城へ向かっていて、狩猟祭がスタートするまであと一時間くらいしかない。
オレはなんとなく城へ行きづらい感じがするけど、そんなことを思ってるのはきっとオレだけだ。
……ユイはきっと平気だろう。

昨日のユイの様子を思い出そうとしたけど……あんまり思い出せない。
二人で街を歩いていたときのことは思い出せるけど、城に行って…シド大公と話をし終わった後のユイは…どんな顔をしていただろうか。

こんなことなら、昨日は城になんて行かなければよかったと思っても…どのみち狩猟祭でダガーに会うため城に行っただろう。
……城に行かないようにしたって無意味だ。
来ないならきっとシド大公は呼び出すだけだろうし、つまりは未来は決まってた訳だ。

ユイは、ダガーと共にアレクサンドリアに行く。
そんな未来を考えたことがなかった訳じゃない。
ただ、実際にそうなるんだという事実を突きつけられて思った以上に動揺した。

「なんで動揺すんだ……貴族の養女なんていい話過ぎるじゃないか……」

少なくとも、タンタラスになるのとどっちがいいかなんて考えるだけ馬鹿なことだ。
タンタラスに入るよりも貴族になってダガーの側にいた方がユイもダガーも幸せだろう

今は平時ではないから、ダガーに身の危険があるけど……事態が収束すればアレクサンドリアという大国に守られる。
これほど安全なことはないだろう。実際に、アレクサンドリアは治安によいとされる国だ。

もしかしたらリンドブルムよりも治安がいいかもしれないと、ユイが悪漢に襲われたことを思い出した。
……タンタラスに入れば荒事だってある。安全に生きるなら、アレクサンドリアにダガーと行くのがいい。

「……ユイの門出を祝ってやらなくちゃな」

オレにできることは笑って見送ってやることだ。
アレクサンドリアに行けば、きっと身分の違いから会うこともなくなる。
だったら、よくわからないうじうじとしたオレを見せてやるわけにはいかない。
格好悪いオレが最後のオレの姿でした、なんて嫌だからな。

「よっし!それじゃあ、まずは格好よく狩猟祭で優勝しますか!」


優勝して、ユイとデートしよう。
飛びっきり楽しませて……誰か他の男とデートするときにオレと比較すればいい。
当然、オレとの方が楽しかったなんて思わせるようなデートにしよう。

「………」

ズキリと痛んだ胸の辺りに手を置いて、オレは首を傾げた。
なんだか……気分が悪い。
エアシッップ酔いでもしたのか?

ガタリとエアシッップは城の前で止まり、オレはそびえ立つリンドブルム城を見あげた。

昨日、デートに誘ったとき、ユイはどこか困ってるような様子だった。
でもそれは、恥ずかしがってるとか戸惑ってるってだけで、約束してくれたんだから嫌がってはいないと思ってる。
でも、嫌がってないとしても…ユイは……少しでもオレとデートをしたいと思ってくれてるんだろうか。


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