いつだっただろうか。


それすら覚えていない上に、記憶も曖昧で定かではない。



『陸奥さんは坂本さんに甘いぜよ』



ただ、部下にそう言われたことだけは確かだ。


その時は何故そんなことを言うのだろうと疑問を抱いた気がする。



『優しいきに、陸奥さんば』



怒鳴り、悪態をつき、銃口を向け、トリガーを引く。


普段優しさと呼べるような甘さを出していないのに。



「…これがわしの甘いと言われる理由になるがか?」



色白の脚を組み直し、カフェテラスの白いテーブルに頬杖をつく。


陸奥の機嫌はマイナスの最高潮へ達していた。


















Special Thanks!
甘くて、あまい。


















「むーつー!買って来たぜよー!」

「…何じゃこれは」

「アイス」

「わしはアイスコーヒー言うた。何でコーヒーがアイスに変わるんじゃ!!」

「おなごはアイスの方が好いてるきに」



目の前で両手にアイスを抱えながら暢気に笑う辰馬。


蹴って黙らせようかと思い、勢い良く立ち上がる。



「?どうした?」

「…何でもないぜよ」



辰馬の左肩。


その箇所を見ると、言い返すことも、況して蹴りを入れることも出来なくなる。


陸奥は力が抜けたようにストンと椅子に座り、辰馬の手から乱暴にアイスを奪うとそのまま食べ始めた。



「アハ、やっぱり陸奥もおなごじゃのー!」

「…(不味かったら良かった)」



好きでも嫌いでもないが、それでもアイスが美味しいのは辰馬にはめられたようで腹立たしい。



「…ちっ」



陸奥は小さく舌打ちをし、くるりと背を向けて先日のことを思い出す。














シュパッ、



取引中のことだった。


大きな音を立てずに、しかし空気を裂く音がして陸奥は振り返る。


後ろに立っていたらしい辰馬の左肩からじわじわと広がる、赤。



「っ…!」

「…頭!?」



左肩を右手で押さえ、立ち膝をついた辰馬の様子を伺う。


呼吸の速度は早く、ひたすら痛みに耐えていた。


陸奥は素早く顔を上げて周囲を見渡すと、二人の天人が厭らしい笑みを浮かべていた。


懐から銃を抜き、銃口を向けてトリガーに指をかける。



「…何しゆう!」

「撃ったら、あかん、のう」



辰馬が陸奥の腕を掴み、発砲を制した。



「こがなことされて黙っていろと?」

「陸奥、落ち着くぜよ。わし、は大丈夫やき」

「じゃが」

「忘れたんか?」



“大義を失うな”



言葉が脳内を横切り、陸奥は唇を噛み締める。


今、我を忘れて撃ったとして。


取り引きは滅茶苦茶になり、快援隊の評判も落ちる。


それを企んでいる天人は、軽い挑発で撃っただけなのだ。


急所を狙うつもりは更々なく、挑発に乗るのは彼等の思うつぼである。



「……」

「…アハハ、すまんのう。ちっくと席、外すきに」

「…阿呆」

「なら、頑張った褒美を、陸奥から、貰った方が良い、ぜよ」



無理に笑顔を作りながら、陸奥に取り引きを任せて辰馬はその場を後にした。



























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