イライラ、イライラ。
音に現すと些か良く聞こえるが、実際はどす黒くて濁った感情から沸き起こっている。
「陸奥さん、これどうしたら良いですか?」
「ん、どれじゃ」
笑顔の裏、眼鏡の奥は誰も解さない。
それ故に辰馬の機嫌は最悪だった。
Special Thanks !
彼女の魔法、彼の呪文
「陸奥さん、これ食べませんか?」
「これは…?」
「この間取り引きしたとこから貰うたんです。美味いですよ」
箱から和菓子が摘ままれて、陸奥の口へと消えた。
「…美味いぜよ」
「本当ですか!?」
「わしの好みじゃき」
「選んだかいがあったぜよ!」
嬉しくてあからさまにガッツポーズをする部下に、陸奥は怪訝な表情で首を傾げる。
「選んだ?」
「あ、いや、何でもないです!じゃ、倉庫で荷物整理しちょる人にもあげてきます!」
「…あぁ」
早足でその場を去っていく背中を見送って前に向き直ると、目の前に現れた人物に驚いて一瞬身体が震えた。
「何の用じゃ」
「今何しちょった」
「貰った和菓子を食べた」
「本当にそれだけがか?」
「は?」
辰馬の機嫌が悪い。
直感に頼っていても長年連れ添ったせいか、彼のある程度のことは分かる。
それなら尚更、早く離れなくては。
「…本当じゃ。わしは部屋に戻るぜよ」
理由は知らないが自分が巻きぞいを食らってしまう。
「陸奥は鈍感じゃけぇ」
「何を言うがか」
「そのままの意味ちや。気ィ付けんと危ないぜよ」
そのまま背を向けて歩き出し、辰馬は複雑な表情は隠した。
「(当然、部下も。じゃが…わしにも気ィ付けんと危ないぜよ)」
陸奥を一人占めにしたいというその欲を、いつも抑えているから。
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