お前が好きだって聞こえた気がしたけど気のせいだよね

一仕事終えたのは俺だけで、はなから交渉などに才能を見出せないと公言している団長は童心に返ったかのように無邪気に雪遊びなどに興じている。小さな疲労感を言い訳にそれに付き合うことを遠慮した俺は底冷えする寒さにさっさと帰りたいなあなどと30分は前から思っているのだが、雪に興奮している団長が遊びをやめる気配はまだない。寒い。
ごろごろごろごろ。こんな極寒の惑星にわざわざ春雨の最強部隊である第七師団の団長以下数名の団員が降り立ったのは、こちらの政府に対してやや強行的に春雨への資金的援助を要請するためだったのだが、神威の本心は雪で遊ぶ、ただそれだけであったことは当初からわかっていたことだ。ガキ丸出しの上司の代わりに俺たちが借り出された、などとは思っていない。ごろごろごろ。というか、もともとそのつもりだったので支障は全くないのが救い所である。我らが団長様は交渉関連に興味など持っていない上、コートなど防寒具一式を用意する俺の姿をやたらと熱心そうに見ていたから今回の同行は、次の仕事は俺に任せろとか殊勝で稀有なアピールでもその惑星の猛者と戦いたいとかでもなく、ただ単にそろそろ雪が恋しい時期だったからだろうということを、推測できないでか。付き合いも随分長くなってしまったのである。ごろごろごろごろろ。雪に興奮した!と叫びだし着陸した途端船を飛び出した神威が奇声をあげながらそこらの雪を固めて雪だるまを作ることに熱中しだしたので、今回も俺たち部下が代わりに滞りなく仕事を遂行したのだった。
滞りなく終わらせたのだから、帰らしてくれればいいのに。
任務完遂ましたよーと報告に、俺たちが内閣府で交渉に当たっている間中、外航船を停泊していた場所から数メートル付近でずっと雪で遊んでいたらしい上司の元へ戻ると、俺の目をしっかり見た上で阿伏兎、付き合え。と名指ししてくれたのだった。俺と遊べということらしいのは、有無を言わせぬその一言で十分に伝わってきた。しゃりしゃりしゃ。これから本部帰ってやることがという理詰めは神威の耳には届かず、俺は内心男泣きしながら部下の一人に引継ぎを頼み、三時間後くらいに迎えを寄越してくれと言付けて団員たちが乗る船を見送るのであった。
そして神威は、雪だるま作りに勤しんでいる。阿伏兎もしようよと誘われたが強制ではなかったらしく、少しはなれたところで見ててやると十分だそうでますます寒くなってきた。しゃりしゃりしゃり。。あっついコーヒーが飲みたい。寝たい。こんなところで寝たら起こしてもらえなくなるので我慢。ぱさぱさ。さっさっさっさ。コーヒー…。

「できた」
「おう」
「なんて立派な雪だるま」
「おう、すげーすげー」
「これ阿伏兎だるま。見てよ、このクオリティ。雪の陰影のみでで阿伏兎の倦怠感溢れる風貌を見事に演出」
「はいはい、すげーすげー」
「そして、部下たちが頑張っているさなか、上司としての務めも果たさずただひたすらにごろごろと大きくし削っていってこしらえたこの4時間にも及ぶ超大作阿伏兎だるまをー」
「うんうん、終わったんなら帰ろうな。待っとけ、そろそろ迎えが来るから」
「どーーーーーーんッ! こうします」
「……」
「どーんっどーんっどーんっ」
「なんか恨みでもあんの俺に?」

俺たちが交渉という名の暴力行為に勤しんでいる最中ずっと作っていたというのであれば自称4時間は決して嘘というわけでもないだろうに、日ごろ拝めぬぐらい丹念に丹念に彫刻家さながらの真剣な顔で雪の塊を削っていた苦労をすべて覆して夜兎の馬鹿力で殴り倒し、蹴りつけ、見るも無残にすすけた雪の残骸とした神威は、それはもう晴れやかに笑っていた。俺がそんなに嫌いですか、とこの寒空のした一人だけ帰宅を許されなかったのもまさかそれが原因かと今更ながら思い至る。団長と呼ぶようになる前にこの青年とは、一回やりあったことがありしかしその最中萎えてしまって白旗を振った俺をいまだに許していないとかそういうことだろうか。執念深いとおぞましさに肩を震わせるよりも先にそんな前のこと覚えているだけの頭がよくあったなと感動さえしてしまう。だが、こちとら再びあの日のように上司と試合うつもりもまして殺し合うつもりもないので、どうやって怒りの矛先を収めてもらいましょうかなどポーカーフェイスの裏側で思案することを強いられた。しかし。

「恨み? ないよ全然! 何言ってんの阿伏兎?」

何朗らかに笑ってやがるこの野郎。

「いやあ、大好きな阿伏兎君を雪像にしてみたまではよかったものの、だるまってのがどうにもよくなかった。手足切り落とされた阿伏兎を連想されちゃってさ、そんなことになったらもう二度と俺に勝ってくれなくなっちゃうから殺さなきゃならなくなるし」

失望させないでくれる?

「…なんで俺だけここに残したんだよ、一戦やりあうつもりじゃなかったのか」
「いや、そんなの雪で遊びたかったけど一人で残されるには寂しいからだけど。え、なになにやれしてくれるって言った今?」
「お前、本当、クソガキ。いくつだよもうそろそろ16だろ?」

本気を見せたことなどないというのに、ガキにどうやら実力以上の幻想を抱かれているらしい俺はせいぜい奴を満足させる体をしていなければいけないらしい。だるまは不吉か。ていうか俺だって嫌だ。意味もなく手足を失うつもりはないが、それを言ったところで満足されなさそうだったので、たとえ今後何があっても腕一本くらいの犠牲で頑張ってやるよ。と言ったら、それでこそ阿伏兎だよがんばれよ、というわけのわからない激励をされた。そう思っているのなら、いい加減団長職についたってことを自覚して、ちゃんと団長してくんないかね。
それにしても、寒い。

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