後悔に苛まれている男

俺に惚れないのが不思議なくらいすぐに人を好きになる特性がある親友なので、まずいんじゃないかとは二日目くらいから気づいていた。が、うっかりと自分で言い出した手前なあおいもうやめようぜともいえず、そのうち本気で毛利に入れ込む政宗を見て、あああ、と頭を抱えることとなった。俺は本当にバカだった。考えもなしに年上の幼馴染のことを口にしてしまったために、親友のアブノーマルな性癖をまた開花させてしまった。元を辿れば、今奴が爛れた性生活を送っている慶次とサヤカも俺つながりで出会ったのだし、それを考慮するとまるで学習できていない俺は鶏頭と呼ばれても今後反論できないだろう。とにもかくにも「毛利を好きになってしまった」とコンビニから出てきた政宗が言い出したときには既に俺はすっかりそれを悟っていたから、「ああそう」とその一言で済んでしまったのだった。心持ち、ぜんぜん嬉しくない予想の的中に、げっそりとしていたかもしれない。待ち時間吸っていたタバコの火先を靴の裏で潰した。駐車場に白い灰が落ちる。アスファルトに咲く花は小さくて黄色かった。
手の早い親友のことだ。俺に言うということはもうとっくに告白しているか、最悪一回くらいは性交済みかもしれない。毛利に性欲があるのだろうかとあまり考えたくもないことを考えて、既婚者の神父に対するようなえもいわれぬ感情がわいてきてしまった。ご近所なので学校の帰り道などで見かけ、毛利が付き合った女のことは何人かは知っているが、彼女たちに対して毛利が性を見出している様子は皆無だった。信者というのがふさわしいだろう毛利に心酔しきった様子の線の細い女達は大体、ふた月単位で毛利の隣から姿を消していた。面識のない彼女たちに対して俺がその後の経過を知るわけもないけれど、病的に崇めていた対象から切られた人間たちの行く末など知りたくもないというのが本心だ。
そんな過去を知っているので、そして幼馴染のことも親友のことも心得ているので、政宗が毛利に惚れたということはおおよそわかっていたとはいえど、俺の心に強い負担をもたらした。
怒らないのかと聞かれたが、向こうにどうこう思う以前に自分自身を責めなくてはなからなかった俺は好きにすりゃあいいんじゃねえか、そうとしか返せなかった。人が人を好きになることに理由も負い目も要らないと唄うロック歌手が俺は大好きで、だから謝る必要なんてないのに、ばつがわるそうにごめんと言われた。ごめんってなんだよ。俺は笑った。俺の親友は聞きかじった英語を日常会話に盛り込みいかにもアホみたいな口調だが、その実他人の裏を読むことには長けている。社員が大体全員ヤクザにしか見えない優良企業のご子息だからだろうか。いずれは奴が社長だ。帝王学は身につけている最中なんだと。
賄賂のつもりか謝罪のつもりか、政宗に渡された肉まんを一口食べた。食べた時点で俺の負けなのだから、認めたということなのだから、気に病まれるいわれはない。

「何度も言ってるけどよ、政宗。友達としてはお前が幸せならそれでいい。確かに毛利は男で反応薄くて薄情でおまけに俺の幼馴染だが、だからどうこうとか、負い目を持つこたねえだろう」
「そうか」
「お前が絶対に惚れないのは、片倉さんと俺だけだ。だろう?」
「そうかもな」
「ああ、本当は真田が一番、だったか。でも意地張っちまって純真なモーションはかけられないんだよな。毛利に気取られるなよ、弱みとして付け込まれるからな」
「恋人っつー意味なら、毛利がオンリーワンだけどな」

俺のことを親友と言い慶次やサヤカのことをフレンドと呼びまだ中学三年生の真田を運命の人だなんて寒く評す政宗だが、その口から恋人という言葉が出てきたのははじめてのことで、いつの間にか呆然としてしまう。気軽に幼馴染のことを親友に話した俺は大バカだな、と気取られないように、自嘲。肉まんの熱がさめていく。

「…幸せにはなれよ、政宗」

でもお前も毛利のことが好きなんじゃないのか。
考えすぎか被害妄想かそう聞こえた気がした。
しかし、俺の親友は聞きかじった英語を日常会話に盛り込みいかにもアホみたいな口調だが、その実、きっと毛利も気に入るだろう賢さを持っている。
政宗の唇に動いた気配はなく、俺は苦笑しながら、親友の肩を叩いた。



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