選んだのはお前じゃないか

どうせここなんだろうなと思ったらやっぱりいて、いつまで経っても進歩のない奴だと呆れてしまう。さつきの幼馴染であり桐皇の自他共に認めるエース青峰大輝は一身上の都合から、バスケットボール部に所属するくせに練習には出ないという何かを根本的に履き違えている男だ。実力がなければさっさとお払い箱なのだろうが、実力がなければそもそも彼はこんな風にサボったりはすまい、とわかっているだけにさつきには苦い。とにかく練習時間にもかかわらず青峰が立ち入り禁止のはずの屋上でぐでーんと横になって秋風に吹かれているのを滞りもなく発見したさつきは、「あーおーみーねーくん!!」といつものように怒鳴るのみである。脂肪があるような体には見えないのに、よくこんな肌寒い中悠々と眠れるものだ。どっかの神経おかしいんじゃないだろうか、と試合中トリッキーな動きをするいつも感じていることをこんなところで感じてしまった。さつきはそろそろスカートの下をタイツにしたい時期である。
桃井に見つけられるとわかっているのにいつも青峰がサボる先が屋上であることを、口の悪い若松あたりは「内心構ってほしいんじゃねえの!」などと囃すが、それならまだ単純で、どちらかといえば可愛いわねのひとことで済む話なのだった。そうじゃないことはさつきがこの学校でいちばんわかっているのだ。若松にわからないのはしかたないにしても、さつきにわかられていながら飽きもせずに屋上に上る青峰は、可愛いどころか馬鹿の一言に尽きる。起きる様子もなく図々しい寝息を風の強い中でもわかるほど大きく立てている寝汚い幼馴染に焦れて、さつきは上履きを脱ぎ、狙いを定めてぶん投げる。
ヒット。黒豹のようなシルエットが機敏に戦闘態勢を取るが、犯人がさつきだと知った青峰の怒りはストレートに投げ返される。

「んなっ…おいこらてめえさつき!」
「馬鹿青峰! 練習だって言ってるでしょ! 次は誠凛戦なんだから、テツ君に申し訳ないと思わないの!」

何でこの男ってこうなんだろう! ずるいじゃない私のほしいもの全部持ってるくせに!とさつきはいつも、ここに来るたびに思うのだ。自分にはそういってもいい権利があると信じていながら、一度も口に出したことはないけれど。口に出せば、言葉になってしまえばそれはますますさつきを縛ると知っているから。絶対にそれに関してはこの男の前で泣きたくないのだが、音となって反響してしまえばその誓いも瓦解してしまうことをわかっているから。
ずるいじゃないか青峰大輝。
屋上から見える風景の美しさを教えてくれた人間から逃げたのは、お前の癖に。

「私はね、持てる全力を尽くしてテツ君と戦うの! テツ君のデータだってこの学校の人間に明け渡すの! なのにアンタが無様な試合してみなさいよ! 絶交だからね!」

もう一回上履きを投げつけてやろうかと思ったが、やめた。さつきが青峰の体を損ねることだけはできない。私は選手じゃない。私は彼と同じフィールドで戦う資格を持たない。
ずるいじゃないか。呆けたような顔でさつきを見下ろす青峰よりも、さつきのほうが彼に想われたっていいじゃないか。ずるいじゃないか。どうして私のできないことをできるのがアンタのくせに、やろうとしないのだ。ずるいじゃないか。

「テツ君を悲しませたら、絶交だかんねえ…!」

泣きたくないと全身が叫んでいた。顔を伏せ、だが絶対に涙はこぼすまいと、自分が泣くからという大義名分を青峰に与えることだけは自分自身に許せないと、さつきは耐える。これが私の戦いだ。屋上に固執する幼馴染に呆れながら、それでもさつきはどこか嬉しかった。彼が教えてくれた絶景の中で、誓え青峰。もうあなたが逃げることだけは、許さない。私が決して許さない。





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