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「陸上部員はミーティングするから会議室に集まれ」


あのハンバーガー事件の次の日。

私達は授業を終えていつものように競技場に向かおうと生徒玄関に向かう途中、会議室の前で土方先輩に呼び止められた。




「こんにちは、土方先輩。今日は何のミーティングですか?」

「各種目の選手オーダーの発表だ」

「あ、昨日遅くまでそのことで会議してたんでしたね。お疲れ様でした」

「別にそのくらいはなんともねぇよ。ほら、マネージャーもさっさと中に入れ」

「はーい」


私は土方先輩と一言二言交わすと、土方先輩によって会議室の中へと押し入れられた。




「梨乃ちゃんだ、こっちにおいで」


中へ入るなり沖田先輩に手招きされて、座る場所を探していた私は素直に沖田先輩に呼ばれた方へと行ってその隣に腰を下ろした。




「沖田先輩はどの種目に選ばれると思いますか?」

「去年、1年生だったにも関わらず100mでインターハイ準優勝という輝かしい成績を収めた僕が、100m以外の何かに選ばれるとでも?」

「いえ、そんなことは微塵も思ってはございません」


私は沖田先輩の言葉に一瞬で圧倒されてしまった。

インターハイで1年生が準優勝。

その凄さに眩暈がしてしまう。

まぁ、その凄さと顔の良さと性格も相まって薄桜学園では彼の名を知らない者はいないと言われているほどで

一部のミーハーな女子達の間ではちょっとしたアイドルにもなっているのだから凄いのは今に始まったことじゃない。




「平助は、呼ばれたら奇跡なんじゃない?」

沖田先輩は近くに座っている平助にも話を振る。

けれど平助は沖田先輩と違って必ず選手になれるという確証はないために余裕はなく、沖田先輩とは正反対に張り詰めた空気を漂わせていた。




スポーツが強いこの学校は、毎年色んなところから頭と運動神経に自信のある人が集まって来ている。

それはもちろんこの学校における陸上競技でも例外ではなくて、

1年生でインターハイ出場を果たして、さらに準優勝までした沖田先輩はレアの中でもレアケース。

普通、校内選抜でさえも1年生が正選手になれることは稀なのだ。

この学校では。








「まぁ…選ばれたらいいなくらいに思ってるよ、俺も」

「いつもと違って謙虚なんだね」


平助はああ言ってるけど、絶対に選ばれてやるって思っているはずだ。

でも2,3年生の先輩達がいる手前、そんなに強気でいられない気持ちは分かる。

特に、今シーズンで引退となる3年生なんかは何が何でも試合に出たいはずだから、

学校別の貴重な選手枠の1つを、入部したばかりの1年生に取られたとすれば決していい気はしないだろう。




私は平助と沖田先輩の話を横目に今会議室に集まっている部員さんの出欠を名簿に記帳する。




「マネージャー、全員揃ってるか?」


会議室の前で部員達の誘導をしていた土方先輩がようやく入室して、私に出欠の確認をしてくる。




「えっと…2年J組の吉田先輩が来ていないようですが、同じクラスの真田先輩何か聞いていますか?」


土方先輩に言われて名簿を確認した私は起立して、まだ来ていない人がいることに気がついて同じクラスの人に事情を聞く。




「今日は学校欠席してるよ」

「ありがとうございます。部長、吉田先輩以外は出席しているので始めていただいて大丈夫です」


私は真田先輩の返事を聞いて、何の連絡もなしに欠席していた人がいないことを確認したので、土方先輩に報告する。




「ありがとな。座っていいぞ」


土方先輩の言葉で私は再び着席する。




「梨乃ちゃんも、マネージャーの仕事が板についてきたね」

「ありがとうございます」


沖田先輩にひそひそ声でそう褒められて、悪い気はしなかった私は素直にひそひそ声でお礼を言った。




「今日はおまえ等が気になって気になってしょうがねぇ、来週に迫ったブロックの選手オーダーを発表する」


土方先輩の言葉に部員達はがやがやとし始める。




「おーい、静かにしろーおまえ等」


副部長の原田先輩の一声で、がやがやしていた声が一瞬で静まり、土方先輩が咳払いをする。




「じゃあ名前を呼ばれたやつは返事をして起立しろ」


土方先輩がそう言うと、部の空気に緊張が走ったのを私は感じた。

さすがに皆真剣な表情だ。















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