02.惚れた彼女
「遥−−っ!」

「きゃあ!総司?どうしたの?」


朝の学校。

交通機関の関係で人より学校に来るのが少し早い私は、いつもは自分より遅く登校する総司が先に来ていたことに驚いて、小さく悲鳴を上げてしまった。

いや、"総司が私より早く登校していたこと"というよりは、"総司がいきなり私の背後から抱きついてきたこと"かもしれない。

朝から抱き着いてくるなんて、総司らしいといえば総司らしいんだけど、それに増しても今日は少しテンションが高い気がして。でもすぐにそのわけが分かった。


「聞いて遥!僕、クリスマス数量限定のケーキの予約に成功しちゃったんだ!」

「えっ?前に私が言ってた"金平糖"って店の?」

「そうだよ!もう嬉しくてさ!いち早く遥にこのことを伝えようと思って学校に来たんだよ!」


そう言って総司は、とてもはしゃいでいた。

低血圧の総司がわざわざ早起きして学校に来てまで教えてくれなくても、チャットで言ってくれたらいいのに。

でも、私がこの前ちらっと言っていただけの話をわざわざ覚えていてくれてたなんて、少し感激しちゃう。


「一緒に楽しいクリスマスにしようね!遥!」


総司の笑顔に、胸がきゅんと鳴った。

総司、今の笑顔は反則だよ。

本当に例えでもなんでもなく、私の心からきゅんて音がしたよ。


抱きしめられた腕から、私のどきどき伝わっちゃいそうだ。


そんな頭お花畑なことを考えていると、すぐ側から、呆れたような声で誰かに声を掛けられる。


「なぁ、おまえらって本当らぶらぶだな。さっきから俺と一君いるの忘れてねえ?」

「平助、二人の邪魔をしては悪いだろう」


慌てて声のする方を見れば、そこにはクラスメイトの藤堂君と斎藤君だった。


「ひゃあ、藤堂君!斎藤君!」


今のやり取り全部見られていたのかと思うと、恥ずかしくて小さくなってしまう。

人前でいちゃつくのは本当に苦手なんだ、私。


「邪魔しないでよ二人とも。僕と遥のらぶらぶタイムを」


総司は二人の言葉なんてどこ吹く風で、全然悪びれていない。


「総司も二人の前で抱きつくのはおかしいでしょ!ううん、そもそも学校で抱きつくことがもう駄目!」


私は二人にいちゃついているところを見られてしまった恥ずかしさを隠すために、総司に怒ったみたいな言い方をしてしまった。

あぁ、私って素直じゃないし可愛くない。

せっかく総司が私のためにケーキを予約してきてくれたっていうのに。


「そんな怒らないの。皆もう見慣れてるでしょ。僕たち学校公認のカップルなんだから」


少し落ち込んだけど、総司は全然気にしていないし、むしろ開き直っている。


「私はそんな公認になった覚えなんて…」


学校公認だとかそんな大事になった覚えはないので、そこは一応しっかり否定しようとした。

けど、言ってるそばから、総司の言葉にも完全には否定できないなと思って口ごもる。

だって総司は、この薄桜学園で1,2を争うくらいモテる。そして生活態度も学園で1,2を争う問題児なので、先生たちの間でも有名人。

そんな人に彼女ができれば学園中の噂になってしまうのは仕方がなかった。


「俺さ、いまだに疑問なんだけど、なんで遥みたいな真面目な女が総司みたいなのに惚れたわけ?」


私と総司の言い合いを横目に藤堂君が急にそんなことを言いだす。


「僕みたいなのとはご挨拶だね、平助」

「いや、平助だけではなく俺も疑問に思っていた」

「さ、斎藤君まで…」


藤堂君結構言うな、って苦笑してたら、どうやら斎藤君までもが同じことを思っていたようだった。


私も今、二人の言葉で思い出したけど、そういえば私たちの付き合いって私の告白から始まったんだった。

付き合ってからの総司の愛情表現が強すぎて忘れがちになっちゃってるけど、本当は私の方が先に総司を好きになってるんだよね。


「あー…そういえば僕たちが付き合ったのって遥の告白からだったね。遥が好きすぎて忘れてた。そういえば僕も遥がなんで僕に告白してくれたのか聞いたことなかったな」


そう言って総司は私の方を期待を込めた瞳で見つめてくる。

それは私に話せと言っているんですか。

どうして私が総司のことを好きになったか話せって言っているんですか。


「せっかくだし俺たちも聞かせてもらおー!な、一君」

「あぁ、興味があるな」

「えぇー!!」


そうして私は、『私がどうして総司に惚れたのか』というタイトルで、総司と斎藤君と藤堂君に自分語りをするはめになってしまった。



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