08.伝える彼女
side―遥



「あ、あのっ…二人とも…」

「すまない、坂下。今は何も言わずにそこにいてくれ」

「ごめんね、遥。もう一度きみと話がしたいから、そのためには一君に勝たないといけないんだ」



どうして、こんなことに……



時は少しだけ遡り、昼休みの始まり。

今朝、斎藤くんから昨日の経緯を聞いて、とりあえず総司から動きがあるまで待っていてくれと言われた。

総司とお弁当食べられないのは寂しいなとは思いながらも、自分が招いた事態だから仕方ない。

そう思いながら、自分の机の上にお弁当を広げたところで、昨日と同じシチュエーションが降り掛かってきた。

総司がすごい勢いで、「遥!」って言いながら教室に飛び込んできて、それに気付いた斎藤君が総司の前に立ちふさがる。

斎藤君が「何の用だ」って総司を睨んで、そんな斎藤君を総司も睨み返して。

そしたら総司が斎藤君に「勝負してよ」って言い出して、それに対して斎藤君が「いいだろう」って言って。

私も斎藤君に連れられるがままに剣道場へ。



そして今に至る。



「昨日ずっと一君に言われたこと考えてたんだ。遥の話ちゃんと聞いてあげなきゃいけなかったなって本当に後悔した。遥はもう、こんな僕とよりを戻すのは嫌かもしれない。でもね、僕はもう一度遥とちゃんと話したい。だから僕は…一君から遥を奪い返すことにした」

「総司……」


心のどこかで信じてたんだ。総司ならきっといつか分かってくれるって。

けれど、そのいつかがこんなに早く来るとは思わなかった。

総司がこんなに早く私のところへ来てくれたは、やっぱり斎藤君の説得の賜物なのかなって。

彼に感謝してもしたりない。


いやいや、安心するのは早いよね。

これから二人の勝負をしっかり見届けないといけないんだ。


二人とも、今はちゃんと胴着を来て防具もしてる。

昨日は防具しないで勝負したって聞いたけど、二人とも痛くなかったかなって、そんなことをちょっと考えた。

総司も斎藤君も、夏服の下に時々、昨日のものと思われる痣が見え隠れしてたから。



それはともかくとして。



「始めっ!」



審判を買って出てくれた藤堂君の合図で、二人の試合は始まったんだ。



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