3.さまざまな思い

**斎藤一**









「あなたが…斎藤一さまですか…」







「はい。俺が、本日ユリア・シルベリア皇女殿下よりお呼びに預かりました、斎藤一と申す者です」








なんて綺麗な人だ。

このお方が、我が国の第二皇女、ユリア・シルベリア様。









俺はユリア様から目が離せなかった。







俺は今まで生きて来て、言葉を失う程までに綺麗だと思う人に出会ったことがない。






容姿はもちろんのことだが、しとやかな話し方や一つ一つの繊細な所作が、より一層ユリア様を綺麗に魅せているのだろう。














そう思っていた。






たった今までそう思っていたのだ。












「まぁ!斎藤さまは写真の通りに本当に見目麗しいお方ですわね!私、これで本当に決めました!斎藤さまを専任騎士としてお迎えしますわ!よろしいでしょう?お兄様」

「おいおい、まだ全然斎藤君とお話できていないじゃないか」

「話さなくても分かります!この綺麗なサファイアブルーの瞳…私をお城から連れ出してくださる勇者様はきっと斎藤さまのことに違いありません!」

「ユリア、まだそんなことを言っていたのか…。きみはもう少し皇族としての自覚をだな」

「あら。私がこんな風になったのはお兄様の甘やかしの賜物ですわ。諦めてくださいな」

「そんな言い方はないだろう。俺はユリアのことを思ってやっていることなのに…」

「よく言いますわね。私が一番したいことはさせてくれない癖して」

「しょうがないだろう。父さんが駄目だと言っているのに俺がそれをさせるわけにはいかない」

「だからこそ私には勇者様が必要なの!」

「………」








どうしたものか。

俺の姿を見るなり、高揚しているようねお声を出されるユリア様と、すかさずそれを宥められるアンリ様。

しかしユリア様はアンリ様の宥めなどものともせずに、言いたい放題アンリ様に不満を漏らし始め。

こんな高貴なお方の兄妹喧嘩を目にしたことなど一度もないため、俺はどうしたらよいのか分からない。

そもそも、これは兄妹喧嘩というのか。


アンリ様が一方的にユリア様に言いたい放題言われているだけのようにも思える。







それはそうと…

俺は今ものすごく度肝を抜かれたような気分になっていた。

何にと問われれば、それはもちろんユリア様の性格だ。

いや、俺の勝手の思いこみだったことは重々承知なのだが最初の可憐な印象が強すぎて。

まさかこんなに我の強いお方だとは思っていなかったのだ。







もしかすると俺がユリア様の専任騎士になるかもしれないということだが。

俺はユリア様と上手くやっていけるのだろうかと。

今、ものすごく不安になってきた。








「おっと、いけない。見苦しいところをお見せしてしまったね。すまない、斎藤君」

「見苦しくて悪かったですわね。お兄様の分からず屋」

「なっ……。分からず屋だと…?俺はこんなにもユリアのことを考えているというのに…」

「所詮は自己満足だということですわ。話は私の一番のお願いを叶えてくださってからです。とりあえず、今はお兄様の顔なんて見たくありませんから席を外してくださいな」

「……はぁ。そうかい、分かったよ」






言い合いの最中、アンリ様は俺が目をシロクロしていることに気付いて気を遣ってくださったのだが、ユリア様は『見苦しい』という言い方が気に入らなかったらしく、再度アンリ様に喰ってかかる。

見ていて分かったのだが、どうやらアンリ様はユリア様を溺愛されているようで頭が上がらないらしい。

ユリア様の一言一言でどんどんと肩を落として行くその姿は、失礼ながらもなんだか憐れに思えてきてしまった。








人は見かけによらない。

これは当たり前のように思えてとても大事なことなのだと、俺は今改めて認識してしまう。




















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