1.始めました
小さい頃から引っ込み思案だった私。
おまけに体も少し弱かったから。
何をするにも人と上手く接することができなくて。
『おまえなんでいっつもなにもしゃべんねーんだよ』
『きっとなにしても怒らねーんだよ、こいつ。ためしてみよーぜ!』
『い、いたいっ…やめて、たたかないでっ』
男の子からいじめられるのなんてしょっちゅうだった気がする。
『沙耶ちゃん、おままごとしよーう?』
『沙耶ちゃんはあかちゃん役ねー!』
『あ、えっと…うん』
幼稚園の頃。
私は本当はお絵かきがしたかった。
だけど自分の気持ちを伝えることも得意じゃなかったから。
『だいじょうぶか、沙耶。せきがつらいか?ねつでだるいか?』
『大丈夫だよ、はじめおにいちゃん』
『学校でむりをしたんじゃないのか』
『ううん、してないよ』
『沙耶、いま姉ちゃんがおかゆ作ってるから。父さんも母さんもできるだけ仕事早く終わらせて帰るって言ってたし。あ、熱さまし温くなってんじゃん。いま取り替えるからな』
『沙耶、おかゆできたよ。あんたの好きなみぞれがゆ。ちゃんと食べてたくさん寝て汗かいて…そしたらすぐに熱も下がるから』
『うん、ありがとう。ひろあきおにいちゃん、ひさおねえちゃん』
小3のとき、その日は学校で鬼ごっこしてた。
鬼ごっこする前から少し熱っぽかった私。
そんな状態だったから本当は鬼ごっこなんてしたくなかった。
上手く断ることができなくて結局症状を悪化させた。
お父さん、お母さん、ひろあき兄、ひさ姉、はじめ兄、家族皆に心配かけたっけ。
『俺…斎藤のことが好きなんだ。付き合って欲しい』
『え、っと…その…ごめんなさい!』
『…なんで。俺と話すときいっつも照れたような顔してたじゃん。そういうフリしてただけだったのかよ。その気にさせておいて怖い女だな、おまえ』
中学。過去にいじめられてたこともあったし男の人と話すことが苦手だった。
話しかけられれば男の人というだけで緊張して顔が赤くなってしまって上手く話せなかった。
勘違いしたのはそっちのほうなのに。
『斎藤さん、また男振ったんだってさ。おとなしいフリして悪女だよね』
『男子もなんであんな女に騙されるんだか』
もう…どうして私はいつも。
何もしていないのにどんどん周りとの溝ができてしまうんだろう。
ううん、何もしないから駄目だったのかな。
高校でこそは自分を変えたい!
自分の気持ち、ちゃんと伝えられるような人間になりたい!
それから、友達もいっぱい作りたい!
未来の自分へ期待を込めて頑張って勉強した。
お姉ちゃんもお兄ちゃんもみんな通ってた薄桜学園に合格した。
これから始まる新しい生活と未来の自分に期待してた。
だけどね…
『入学式、残念だったな。あと一週間もすれば退院できると先生も仰っていた。今は余計なことを考えずに回復することに専念しておけ』
『うん…』
『沙耶は1年A組だった。担任は土方先生という古文の先生だ。その土方先生からプリントを色々と預かってきたから目を通しておくといい』
『ありがとう』
小さい頃から喘息持ちだった私は、不幸にも入学式の一週間前に発作を起こして入院。
見事に新生活のスタートに出遅れてしまったのだった。
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