2.What is this feeling?
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さっきの講義が終わった後に有紗ちゃんと少し話そうってことになった僕は、先に行っていて欲しいと言った有紗ちゃんの言葉通りに、先に待ち合わせ場所の学食隣の少し洒落たカフェに入っていた。
5分程待ったところで笑顔でやって来た有紗ちゃんに、僕はよく分からないけれどうきうきしているような気持ちになる。
だけどそんなのも束の間で、てっきり二人きりだと思っていた僕は、有紗ちゃんの隣になんだか無愛想な顔の男がいることに気がついて、どうしてだか分からないけれどテンションを落とした。
「えっと、彼は誰?」
「彼はね、わたしと沖田くんと同じ学科の斎藤一くんだよ。話したことはなくても顔くらいは見たことあるでしょ?」
「え、まぁ…うろ覚えだけど」
「斎藤一だ。よろしく」
「…僕は沖田総司。一くんって呼べばいいかな?」
「好きなように呼んでくれて構わない」
沈む気持ちを悟られないように自己紹介を済ませた後、有紗ちゃんにどうして彼がここにいるのかを聞いた。
すると有紗ちゃんは、「斎藤くんが沖田くんと話してみたいって言ったからだよ」って満面の笑顔。
あぁ、なるほどね。
僕は有紗ちゃんのその言葉だけで悟った。
彼…一くんは、きっと有紗ちゃんのことが好きなんだろうなって。
有紗ちゃんだけ見ていた時は気が付かなかったけれど、改めてこの二人をセットで見ると、僕は色々なことを思い出した。
確かこの二人、学内でもよく一緒にいるのを見かける気がする。
「二人はよく一緒にいるよね。付き合ってるの?」
「なっ…」
「あはは、わたしと斎藤くんはただの友達だよー!ね?斎藤くん」
「あ、あぁ…」
鎌をかけるつもりで聞いたけど、収穫は大きかった。
反応を見るにやっぱり一くんは有紗ちゃんのことが好きなんだろう。
でも有紗ちゃんにはその気はないんだと思う…多分。
そんなに分かりやすく動揺しちゃうなんて、一くんって見かけによらず単純で純粋なのかもしれない。
「サークルも同じだし学科も同じだから、よく一緒にいることが多いんだよね」
「そう、だ」
「ふーん…二人は何のサークルに入ってるの?」
「アウトドアサークルだよ!旅行とかたくさん行くサークル!」
「へぇ、楽しそうだね?でも一くんもそういうサークルに興味あるんだ…なんだか意外」
「別に、俺は…古川に誘われたから入っただけで」
「そうそう、わたしが誘ったの!沖田くんもどう?楽しいよ!この間もレクリエーション会とかで県外までテニスしに行ったの!」
僕はすでに別のサークルに入っていたし、どうしようかと考えた。
そうしているうちに頼んだアイスコーヒーが運ばれて来て、グラスの氷をストローでかき混ぜながら、一くんのほうをちらりと見やる。
うん、隠してはいるけれど面白くなさそうな顔。
だからって僕が気を遣ってあげる理由なんてどこにもないんだし、ここは自分の好きなほうを選べばいいよね。
なんだか有紗ちゃんって面白そうな子だし、一緒にいて退屈しなさそうだもん。
あ、もちろん一くんもね。
「入ろうかな。なんだか面白そうだし」
「本当?じゃあ部長にメールしてみるね!」
「うん、よろしく」
サークルに入るって言ったら、有紗ちゃんは楽しそうに携帯電話でメールを打ち始めた。
その間、一くんをおちょくってあげようと思って、「邪魔だったかな?」って聞いたら「なんのことだ」と仏頂面で返された。
あぁ、そういう反応って見ていて面白いよ。
「古川、俺はこれからバイトがある故、そろそろ帰るが…」
「あ、そうなの?今日はやんちゃな方?」
「ふっ…おとなしい方だ」
「そっか、頑張ってね!」
しばらく他愛もない話をした後、一くんはバイトへと行ってしまった。
二人の会話のやんちゃだとかおとなしいだとかの意味が分からなくて、有紗ちゃんに何の話かと聞いてみたら、一くんは家庭教師のバイトをしていて二人の生徒を受け持っているらしく、その生徒二人の性格の話をしていたんだそうだ。
もう7月で入学してから3ヶ月以上は経っているし、二人だけの世界があることも当然なんだけど…
今度は僕が面白くないなぁって思ってしまった。
でもそれがどうしてなんだか僕には分からない。
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