暑いならもっと暑そうな顔をしろと兄の説教の名を借りた理不尽な文句の意味がやっと分かったような気がする。じわじわとせり上がってくる吐き気と共に、全身は火を吹くように熱を帯びている。だが顔色は普段と何ら変わらない、不健康なまでに真っ白なままの肌色が目に浮かんだ。もしかしたら少しだけ頬が火照っているかもしれないが、それも僅かに色づく程度のもので普段とあまり差異は見受けられないと思う。だからこそ、周りも自分自身でさえも体調の変化に全く気付けない。

いや、誰も気付けていないというのは語弊だ。たった一人だけ、この変化に気付いた奴がいた。
翠緑の髪色がぼやけた視界を染める。唐突に傾いた体をなんなく抱きとめて木陰へと誘導したのはこの男だ。一体自分が倒れてからどれ程の時が経っただろう。
買い出しに付き合って外に出ただけだというのに、ここ最近の急な温度の変化についていけなくなった己の脆弱さにほとほと呆れる。そしてそれをフォローしたのがよりにもよってこいつだということを恨む。恥と借り、一度に二つもの不始末を見せてしまった自分の不甲斐なさが憎い。それをさも気にしてなさそうな奴の態度がまた余計に苛立ちを煽った。
これ以上無様な姿を晒し続けるわけにもいかず、しかしかといって思うように体が動いてくれるはずもなく、焦りばかりが募る一方。背筋を伝う汗を感じ、皮膚が粟立つ。夏なんて死滅してしまえばいい。
「怖いことと考えてたりします?」
胡散臭い笑みがこちらを覗きこむ。狭まった視界いっぱいに映る奴が気に入らなくて、視線は自ずと鋭くなった。あるいは指摘されたことが図星だったせいかもしれないが。
「近寄るな暑苦しい」
「これはこれは、申し訳ありません」
仰々しい態度がわざとらしさを加速させる。それでいてあの金色がこちらを捉えて離さないから、目を瞑って暗闇に逃げることさえできない。一度あの黒衣を脱いでしまえば此奴もただの人なのだということを自覚させられてひどく落ち着かなくなった、どうして自分はこんな奴の側にいるのだろう。
「もう少しお休みになっていてください、迎えを呼んだので」
「迎え……?」
「ええ、不本意ながら狗を一匹」
何のことを指しているのかまるで分からなかったが疲弊した身体はとにかく休息を求めていて、奴がこちらから視線を逸らした途端目蓋は重みに耐えきれないと言わんばかりの勢いで落ちてきそうになっていた。
「良い夢を」
視界を塞ぐように手を翳され、呆気無く落ちる意識。その裏で奴が浮かべた笑みを自分は終ぞ知ることはなかった。


狡賢い頭蓋骨
(:20131025)
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