そうか、こんなに近いものなのかと気付いてしまえばそこで夢はいつも終わってしまった。
未練たらしく伸ばした腕が空を切るところから始まる一日をすでになんど繰り返してきただろう。またかという呆れと、気付かず頬を濡らしていた涙からなのかは知らないが痛む頭にと、今朝もまた最悪な目覚めを迎える。いつもこうだ。
夢は、とても幸せなのだ。遠くの方で硝子に亀裂の入るような、そんな歪な音がこの耳に届くその直前までは。温かい世界で、羽毛布団に包まれたような優しさを甘受しているだけの自分に忘れるなと警告するかのように、優しかった世界はあっという間に崩れていく。
呆然と見ていることしかできない自分の目の前に、次々と倒れ伏せていくのは先程まで笑い合っていた家族、友人、仲間。足元にまで這い寄るは、彼らの血液。気が狂れてしまいそうになるすんでのところで、次に感じるのは背中に寄せられたほんの少しの体温。本当に今にも消えてしまいそうな、脆弱な温度。
振り返ってこの腕に閉じ込めて共にぬくもりを分かち合いたいのに、心の何処かでこの温度に目を向けてしまえば一瞬にして消えてしまうのではないのかという恐怖が沸き立つ。たったそれだけの不安が、全身を縛り付け指の一本でさえピクリとも動かせずにさせた。
「――…スザク」
ぽつりと零された自分の名を呼ぶ声には聞き覚えがあった。いや、聞き覚えがあるだけでは終わらない、それは確かについさっきまでこの腕の中にあった、
「ありがとう」
そこで夢は覚める。目覚めた自分に残るのは、ただの虚無感。
黎明の空の向こう側からゆっくりと広がる陽の光が今はとても目障りで、目を背け、もう思い出せない温度にただ咽び泣いた。
もうあるけない
(:20131005)