頬に一線引かれた傷跡をなぞるように指の腹で撫でる。
「なに? 血出てる?」
「いや……もう塞がっている」
「ふーん」
聞くだけ聞いておいてあまり興味は無いようで、こちらを見たと思ったらすぐに意識を別へと移される。時折伏せられる目蓋は若干眠たげなことも相まって重そうだと感じた。といってもすでに寝床へ潜り込んでいることも考慮すれば、それは実に自然なことなのだろう。三大欲求の一つには流石の自分も完全に耐えられる自信はあまりない。むしろ時には欲求に任せてしまった方が事は上手く運ぶということは、夜刀の姫であるリンネの言い分である。
こちらにしてみれば、彼女は少し欲求に忠実すぎる気がするのだが。

一直線に一部分だけ綺麗に痕の残った傷をハイドにつけたのは、何を隠そうセト本人だった。ただ、そこに至った経緯を説明するとなると万人が納得のいくものになるかどうかは怪しい。本当にただ衝動的に、無意識に近い形で動いてしまった手を止めることはできなかった。
薙いだ瞬間の見開かれた瞳と微かに舞った血は同じ色をしていて、頭にこびりついて離れない。
ハイドは何も言わなかった。
「似たようなことしたらさ、」
ともすれば聞き逃してしまうような声で、こちらを見ることなくハイドは言った。
「セトは、どうする?」
疑問は、祈りと望みを含んで吐き出されたように聞こえる。
「――お前と、同じだ」
自分でも驚くくらい淡々と答えた。恐らくそうに違いないのだろうと、確信に近いものを持って。
僅かだが距離が縮まるような、そんな錯覚を不思議と覚えた。


きみはなんていうかな
(:20130915)
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