ぼろぼろになった巫女服の切れ端を見て、ああ今日もまたやってしまったと一人ひっそりと沈む。ここのところミスが多く母港に帰ってくる度に中破、または大破した体を引きずっていることが多々ある。ドッグに入っている時間も決して短いわけではなく、その分補給だって洒落にならない。正直言って、今の自分はお荷物も同然だ。金剛は深くため息を吐き出す。
提督は何も言わない。文句も怒声も、一切自分には浴びさせようとはしない。静かに下す指示は壊れた体を直すようにと、ただそれだけ。たったそれだけだから、余計に不安になった。いつ見捨てられてしまうのだろうか、戦場はシビアである故に。下手をすれば己のミスは時として仲間の轟沈に繋がってしまうやもしれない、それがさらに金剛の不安を煽った。
しかし外面はいつものお調子者の仮面で、ひっそりと抱えたわだかまりは心の奥底に沈める。
またいらぬドッグ入りで迷惑をかけてしまうなと苦い表情を浮かべながら入渠に向かっていたその時だった。ひどく慌てたような足音が、すぐ向こうから聞こえてくる。こんなに騒々しいのは一体誰だろうと疑問に思っていたが、それはすぐさま分かることとなった。
「――金剛っ!」
飛び出してきたのは提督その人だった。突然のことに金剛は目を見開いて唖然とする。その肩をがっしりと両手で掴み、軽く揺さぶりながら提督は焦った様子で問いかけてきた。
「大破したって聞いたぞ、傷の具合は大丈夫なのか?! 今日に限って旗艦にしなかったから心配だったんだ、無事なんだな!? お前赤城にまだ行けるって無茶言ったそうじゃないか、馬鹿野郎!!」
矢継ぎ早に投げられる言葉の数々を受け止めきれなくて混乱状態に陥った脳裏でとにかくなんとか分かったことといえば、提督が金剛の身を案じているというただそれだけのことだった。
だが、それまで不安の海に身を攫われそうになっていた金剛からすれば、たったそれだけのことでも胸に染み入るものがあった。
「心配、したんだぞ」
何よりもその一言が、金剛を救ったのだった。
「……ごめんなさいデス、提督。本当に……本当に、ごめんなさい……」
「まったくだ。お前はいつも、無茶ばっかりしやがる。肝を冷やすこっちの身にもなれ」
「ふふっ、そんなに慌てて……みんなきっとびっくりするデス」
「ああ驚かれてたな。特に天龍なんて驚愕しすぎて明日は槍が振るとか失礼なこと言ってやがった。あとで遠征送りだな」
油断をすればいまにも零れ落ちてきそうな涙を、今は少し堪える。
この場所にきちんと帰還できた感謝を、必死になってくれていた提督への面目なさと有り難さを言葉にして伝えるために。
「提督、ただいまデス」
煤だらけの顔で、しかしとびっきりの笑顔を浮かべながら。金剛は勢いよくその広い胸に飛び込んで言ったのだった。


(:20130809)
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