(触れ合っていろいろと悟っちゃったセトハイ)
――次にまた、虚ろの夜で相見えた時には……

昼時で騒がしい教室の中、一人机上に突っ伏すハイドの視線は虚空に向けられていた。周りではあっちこっちを忙しなく人が行き交っていたりするというのに、それを歯牙にもかけぬハイドの脳裏では、今朝から何度も繰り返される声があった。静かに響く少年の落ち着いた声音、あの夜に発せられた一字一句を鮮明に覚えている。
冷たさもどこか孕んだその声に、心臓をぎゅっと握り潰されるかのような心地にさせられる。あの時の言葉に容赦など一ミリたりと存在はしなかった。でも、とハイドはさらに思い出し回想に耽る。頬に添えられた手が、細く吐き出される吐息が、言葉よりも雄弁に語る。愛しさと、切なさの入り乱れる複雑な心境を目の当たりにして、ハイドはずっと思い悩んでいた。
「言い逃げとかずりぃ奴……」
まいってしまう、こんなこと初めてなのだ。これは素直に告げられるよりもたちの悪い、自分がこうなることを分かっていてやったのではないかと勘違いまでしそうになる。
なんと不器用な男か、流石はリンネの子孫なだけある。
(好きだって、叫ばれたようなものだ……)
次に相見える時、彼に真っ先に向けられるのは果たして刃か、それとも――。



(雨の日のセトハイ)
外ではしきりに窓を叩く雨粒。降り出したのはつい一時間前ほどで、慌てて取り込んだ洗濯物はいまだに若干湿っている。それでもなんとか乾いていたものだけ抽出して畳んでいれば、玄関の方に気配を感じた。恐らく間違いのない予感が、玄関の扉を開けるよう急がせる。
「やっぱりな……」
無言で立ち尽くす少年。頭から足の先までぐっしょりと濡らしたままの様は、出で立ちも相まってまるで濡れ烏のようだ。なるほど、羽を乾かすためにこの烏が立ち寄ったのはここか、ハイドは苦い笑いを浮かべた。
「とりあえず、上がってろよセト。今なんか拭くもの……」
早急にこのずぶ濡れの状態を何とかせねば風邪をひいてしまうだろう、セトを室内へと導きバスタオルか何か取ってこようと廊下を進むため足を踏み出した。しかしくんっと何かに服の端を掴まれ、歩を止めさせられる。
「セト?」
Tシャツの端を控えめにしかし掴む強さに加減はなく、このままでは一歩も前に進めないと判断したハイドは声をかける。
「どうした? なんかあったか?」
先程から一言も発せないセトの口元はいつものように服で覆い被してあり、ハイドにはそれが余計に不安を駆り立てる要因となった。服の裾を掴んでいた手はいつの間にかハイドの腕を掴んでおり、セトの尋常でない様子に気を取られていたハイドがそれに気づいた頃にはすでに彼の身体はセトに抱き寄せられていた。
雨を吸って湿った布が押し付けられ、じわじわとハイドの衣服まで浸食してくる。セトの身体は冷え切っており、唯一肌が直に触れ合う手から這い上がってくる寒気が身を小さく震わせる。
されるがままの状態でセトをすぐ近くに感じるハイドは途端に悟った。
(これは、俺から触っちゃダメなやつだ)
直感が語りかけることは、あながち間違いではないのだろうというよく分からない自信があった。彼の気の済むまで、ただここに在るだけでいい。
首元に擦り寄る体温に目を伏せ、少しでも温度を分け合えたらと感傷的な気分に駆り立てられていた。


(:20130703)
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