(綺麗なままではいられないマグ→ネス)
息を殺して泣く様を盗み見て、己の中にあったわだかまりの名を知る。もっと、次は声を上げて泣かせたいなどと、悪趣味過ぎてさすがに笑えない自分の口元を手のひらで覆う。
それはいつか、彼の拠り所の一つとして自分が在ることを知った時も、似たように黒く重いとぐろを巻いたわだかまりを感じた。悟られでもしたら、彼はどうしてしまうだろうか。その醜悪な感情に顔を歪め、自分から目を逸らしてしまうだろうか。
(それは、嫌だな)
お互いに傍らを離れる想像がつかない関係に、溺死してしまいそうだった。



(恋を知るフォル←カゲ)
ついこのあいだまであの空に不気味なもう一つの月が昇っていたことを今でも鮮明に思い出せる。煌々と輝くその下で真っ直ぐに見上げる姿は恐らく自分ただ一人。暁の丘にまで足を運んで何がしたかったかと問われれば、カゲロウには特にこれといって大きな理由はなかった。
行き先は置き手紙の形でもって知らせてから家を出たから分からぬままの心配はかけていないはずだが、それでも黙って出てきたことに対しての何らかの小言は避けられないだろう。あの兄のことだから、息を切らしてここまで追いかけてくるやもしれないと考えたところで、それは自分自身の願望かとカゲロウは自嘲した。
我ながら試すような真似をして、まあ意地汚く育ってしまったものだと、兄に対して若干の申し訳なさに駆られる。こんな可愛げの欠片もない自分を、あの日相見えてから片時も離れることなくいてくれた兄には本当に、感謝してもし尽くすことはない。家族として、響友というパートナーとして、多くの居場所を形にしてくれた兄にこれ以上何を望めようか。むしろ貪欲でありたいと少しでも考えたのならばそれは恥以外の何ものでもないはずなのに。
よく、分からない。制御しきれぬ想いがじわじわと体を侵食していく。その恐怖から逃れようとしても、兄に近づけば近づくほど肥大していく。物理的に距離をとり、ぐっと奥底に沈めておかねばならないという強迫概念に駆られたからこそ、この丘で静かにただ一人月を見上げているのかもしれない。
「――いってェ……」
刺すような痛みを胸部に感じ、その辺りをぎゅっと抑えつけた。
言い知れぬ何かが、そこから今にも飛び出してしまいそうだった。


(:20130701)
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