(マジで性行為する五秒前なセトハイ)
――世間知らずと思っていたのにな。
愚痴をこぼすような体でもって脳裏でつぶやく。自分を組み敷く男の瞳はぎらぎらと野性的な色が濃く現れていて、ものの数秒もあれば骨の髄までしゃぶりつかれてしまいそうな勢いがした。しかしそれをせずにただ見つめ合うだけの彼は、きっとハイドが考える以上にずる賢い男なのだろう。自分が了承しなければ、きっとこの唇が全身に降りかかることはない。ハイドは諦観の溜息を細く吐き出した。
「セト、」
狼に食べられる兎の気持ちなど、知らないままだと思っていたのに。



(ふたりぼっちなハザジン)
冬の海は寒いですよと言いながらそこへ自分を連れて行く奴の神経は分からない。おちょくっているのかなんなのか。右でハンドルを握る男は、先程からとりとめのない話題ばかり振ってくる。つまらない会話がはずみを見せるはずもなく、沈黙が場を覆った。風をきる音と、潮騒の音が静かなこちら側とは対照的に、窓の向こう側にあった。
「怒らないんですね」
勝手に遠くまで連れ出したことを言っているのか、それとももっと別のことを指しているのかは分からないが、奴はこちらに視線を向けることなく呟いた。怒らないのではない、怒っても意味がないのだ。
「今更だな」
「確かにそうですねぇ」
けたけたと笑いながら言う男に腹は立ったのは事実なので、寒いと噂の海に突き落としてやろうかと思った。



(発売前のやれるだけやっとく妄想なカグジン)
右目を覆う包帯の大袈裟さに嘆息しては、片目だけの不自由さに慣れぬ現状を恨む。そもそも、もう二度と見えぬというわけでもなんでもないのに、いちいちこちらを伺う周りが鬱陶しいことこの上ない。しかも誰が怪我させたわけでもなく、自業自得の故だというのに。
「それだけ次期当主候補が心配だってことだろ」
宥めるように頭を撫でる相手に、それでも鬱憤は晴れない己は幼稚にむくれたような態度をとる。理解できるのと納得することはまた別の話だ。
「かくいうオレも、最初は肝っ玉抜かれるかと思うくらいには驚愕したんだぜ? 皆の気持ちが分からないわけでも無いわけよ」
「それにしたってしつこすぎやしませんか、もう四日経ちました」
「まだ四日だ。お前が片目に慣れないように、あの二つ揃った碧眼が臨めないお前に皆慣れてないんだよ」
柔く微笑む義兄に言いくるめられた気まずさから目を逸らす。この現状に自分が慣れる頃には、周りも同じように果たしてなるのか。半信半疑といった様子ではあったが、ひとまずの納得をジンはすることにしたのだった。


(:20130630)
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