※現パロ。
※ハザジンのような、そうでないような。
木陰にいたって変わらない、真夏の陽射しの強烈さに眉間によった皺。呼吸するのも鬱陶しいこの季節が、ジンにとっては生まれてからずっと忌むべきものだった。
「ジン、焼けるんだからシャツ羽織っとけって」
愛兄の忠告も、今だけは冷たく跳ね除ける。
「暑いから嫌」
「お前な……いっつもそれで赤くなって痛い目にあうのはお前だろ? ただでさえ肌弱ぇのに」
「どうせもうちょっとでスーパーつくんだからいいよ」
なるべく日陰を選んで歩いてはいたが、目当ての建物までずっとあるわけでもない。今逆行している、自分達が普段使用している通学路を抜けて車道に出てしまえば、当分目立った日陰はなくなってしまう。
ほんの数分ほどではあるが、この容赦ない日光にじりじりと焼かれ不快感は倍増する。それを分かっていて、ジンはあえて自分の肌の心配ではなく表面温度が少しでも低い方を選択した。
なんと頑固な弟であるか、ラグナはジンには気づかれぬようひっそりと溜息を吐く。弟の選択が理解できないわけではないのだが(ラグナもできれば、肌が焼ける心配よりも半袖でいられるほうを選ぶと思うので。)、しかしあの真冬の雪を連想させるような何処までも白く澄んだジンの肌が、太陽の光線でもって痛々し気な赤色に変わる様は見てみてあまり気分がよろしくない。ここは奴が嫌がったとしても、心を鬼にしてその純白を守り抜かなければ。と、そんな感じにおかしな使命感に己の兄が駆られていることも露知らず、不機嫌そうな表情一つ変えずに目的地に向かってただ黙々と足を動かすジン。
ぶわりと、熱気を孕んだ南風が彼の頬を掠める。目を眇めて風をやり過ごした刹那、視界の隅で捉えた何かに気づく。
――黒?
「ジン?」
はっ、と我に返る。
右手の方向から、少し心配そうな顔をしてこちらを覗き込む兄。そこでようやくジンは自分がぼーっと突っ立ったまま動いていないことに気づいた。
「大丈夫か? 気分悪ぃのか?」
「……ううん、大丈夫。ちょっと呆けただけだから」
何やら見覚えのあるものだと、僅かに反応した自分を不思議に思う。こんな真夏に全身黒い装束を身に纏って街を練り歩くような知り合いなどいない。
もう一度、先程見つめていた方角に視線を向ける。車が忙しなく行き交う光景だけが、そこにはあった。白昼夢でも見たかと、自分で自分を揶揄する。
「行こう、兄さん」
額から伝う汗を拭い、気怠い足を前へとただ進めた。
横風が通り抜けた後の背中がやけに粟立ったのが、また不思議でならなかった。
うつつにねむる
(:20130503)