「最強は健在ですか」
皮肉混じりに聞こえたのは否めない、そうヤスタカは自分でも分かっていた。
つい先ほどまで挑戦者がその身ひとつを震わせ、目の前で戦う己のパートナーに精一杯の指示を出していた光景を頭に浮かべなが、地に立つ自分の足を見つめそこから真っ直ぐに数メートル先を見据えた。その先にそびえ立つ壁。
「容赦ないですね」
「手加減してどうする」
「いや、確かにそうなんですけど」
余韻が抜けきらないのか、バトルからもう大分時間もたっているのに、自分たちのリーダーである彼の瞳からは冷たさの欠片が見てとれる。普段はそんな様子、少しだって見せやしないくせに。ヤスタカの心中は驚くほど冷めきっていた。どこか面白くない、ただそれだけがヤスタカの先ほどまでの光景に対する感想だった。
「なかなか手強かったはずなんですけどね」
「そりゃお前倒してここまでくるぐらいだからな」
「でもリーダーはあっという間でしたよ」
「あっという間でもねぇよ、少しヤバかった」
「そういう風には見えなかったですね」
「何が言いたい」
こちらを射抜く二つの瞳がぎらりと光る。燻る炎がその内に垣間見え、それまでの不快感が嘘のように掻き消される。僅かな高揚に塗り替えられた自分自身の単純さにヤスタカはそっと笑った。
「何がおかしいんだよ」
「いえ、別に」
訝しげに睨んでくる様も何故だか拗ねているように見えてしまい、なんだわりと可愛い人だったのかと新たな発見も同時にあった。口元を押さえくつくつと喉の奥を震わせているヤスタカに、ずんずんとフィールドを闊歩しやってきた彼は、ヤスタカに近づき思いきり足を蹴りあげた。
「いった!」
「後片付け全部お前がやっとけよ」
「え、ちょっ……八つ当たりですか?!」
「うるせぇばーか」
そっぽを向き踵を返して行ってしまうグリーンの子供のような横暴さにヤスタカは思わず苦い顔になった。後始末の面倒臭さを想像してさらに渋い顔になる彼に、グリーンは思い出したように声をあげた。
「お前さっき最強は健在だとか言ったな」
「え? ああ、はい」
「今も昔も、俺が最強だったことなんて一度もねぇよ」
腹立つけどな。そう言い捨て、止めていた足をグリーンは再び進める。
突然の言葉にヤスタカは目を丸くし、グリーンの去っていく後ろ姿をただ見つめるだけとなった。はっと我に返り彼の一言を反復すれば簡単に真意を悟らされる。
「……嫌味には最高の返しですね」
彼が呟いた時、こちらを一度も振り向かなかったのはそういうことか。
しくじったという気持ちと気まずさを携え、ヤスタカはグリーンが去っていった方向をじっと見つめたまま立ち尽くしていた。


貴方を追い掛ける術が見つからない
(:20121209)
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