起こしに向かった部屋はすでにもぬけの殻で、こんな朝早くからいったいどこに行ったのかと首を傾げることになったと思ったら何やら階下で不吉な音がしたので慌てて階段を駆け下りた。
足を向ける先はただ一つ。洗面所前までどたどたと慌ただしく駆けつければ、何をしたのならばそうなるのか懇切丁寧に説明して欲しいほどに、頭から水を被ってはびちょ濡れなましろがぼんやりと虚空を見つめて立つだけだった。
「今度はいったい何やらかしたんだよ……」
「顔、洗おうと思って」
「それでこの惨状なのかよ!お前は天才か!!」
自分でもわけのわからないつっこみを一応入れておく。もはや慣れたやりとりに、しかしましろは不思議そうに首を傾げながら「寒いわ……」と無表情で呟く。ああそりゃ全身ずぶ濡れですからね、寒かろうよそりゃ。
「はぁ……とりあえず、早く着替えとけよ。風邪ひくぞ、ましろ」
「……空太」
「んー?」
幸いにもすぐ近くにあったバスタオルでもって髪の毛くらいは乾かしておこうと、ましろの頭にタオルをかけてがしがしと吹き始める。されるがままの状態で自分の名前を呼ぶましろに軽く返事をすれば、彼女の双眸は真っ直ぐにこちらを射抜いてきた。
「おはよう」
ましろの口から放たれた四文字は、届くまでに大分長いラグが生じた。なんでもないことなににも関わらず、ましろの唇が震え音を紡ぎだす様は普段から言われ慣れている言葉なのに一層特別なものに感じられた。
唖然としたまま動けない俺にましろは言葉を続ける。
「今日一番のは、空太に言いたかったから」
小さく微笑んだましろの表情に情けない話釘付けになって何も言えない俺は、じわじわと顔に集まる熱を確かに感じていた。


Good morning world,
(:20121204)
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