──床で寝たら風邪ひくってあんなにすっぱく言ったのに。
タオルケット一枚巻いただけのおざなりすぎる伏見の様子に秋山は苦い気持ちを隠しきれず、小さく零れた溜め息は真っ暗なアパートのワンルームに溶けて消えた。猫のように体を丸め、来客にもまるで気づかない眠り様から、疲労以外は何も読み取れない。心なしか眉間にしわを寄せている表情から、あまり良い夢も見れていないようだと秋山は推測する。自分自身、連日の怒濤の勤務内容から重度の疲労をその身に感じており、できるならば目の前で眠る彼のように後先考えず睡眠欲に身を任せられたらとは一瞬考えもしたが、後が面倒臭そうだとあと一歩のところで踏みとどまった。
片手にぶら下げていたコンビニのレジ袋を近くにあるローテーブルにそっと置き、いまだ眠る伏見に静かに近づく。僅かな呼吸音しか聞こえない密室には確かに夜が鎮座していた。
「お疲れ様です」
外すことすら億劫だったのかかけられたままの眼鏡を伏見から取り上げ、瞼にかかる前髪を払ってやれば眉に集まっていたしわはいつの間にか消えていた。
緩ませた表情は年相応のものだということに安堵した秋山は、静寂の降りる部屋でその幼い寝顔を飽きることなくいつまでも見続けていた。
アリスは午前二時に臥す
(:20121124)