いつもの無愛想な挨拶さえももう慣れた。だがしかしなんとなく気に入らなかったのでその足を蹴ってやる。反動が自分に返ってきたのは内緒だ。
朝が嫌いだ。眩しい、騒々しい、これら二つの理由が主な原因である。思えば学生の頃から好かなかった。早起きは三文の得だなんて誰が考えたんだよ、全く持って遺憾だ。得どころか損失ばかりじゃないかと、気づけばそんな愚痴を毎朝友人のあの眼鏡に零していた様な気がする。その度に奴は俺のことを夜行性だと言って笑った。別に夜が主な活動時間な訳じゃない、昼は好きだ。雑踏溢れる街の景色だとか、暖かな日の光だとか、朝と違って時間が穏やかに過ぎていく様は見ていて気持ちがいい。
低血圧なだけだろうと、諭されたこともある。心外だ、そんな安っぽい理由なわけがない。
理屈をこねられるのが嫌いな奴は、顔をしかめて言った、わがままだと。正直アイツにだけは言われたくなかった、その日は一日中気分が悪かったのを思い出す。
そんな朝が、今日もやってきた。憂鬱な始まりではあるが、我慢しなくてはいけない。目を覚ますために冷水を顔に浴びる。水に濡れた前髪からポタポタと雫が落ちる前に、タオルで拭いた。ぼんやりと、今日一日の予定を思い出す。コンマ0.2秒で弾き出した答えは、完全オフ。
なんてことだ、折角の休みなのにも関わらず早起きなどという行為をしでかしてしまった。なんたる失態、これは今すぐにでもベッドに戻って損失分を補うべきだ。
「させるか」
ぺちっ、という軽快な音が自分の額の辺りから響いた。視界を覆いつくす見慣れた手のひらには、一筋の切り傷のようなものが見えた、ちなみに治り掛け。おそらくこれは俺が先日ちょっとした悪戯心から付けたものであって、こうも治りが早いのをまじまじと見せ付けられるとそれはそれでまた苛立つというもので。
閑話休題、先程の声の発信源は自分の頭上。つまりは、
「…ちっ」
「舌打ちすんじゃねぇよ」
「離してよシズちゃん、俺にはこれから睡眠という重要な任務が待ち受けてるんだから」
「ふざけんな起きろ馬鹿が」
「嫌だなあ起きてるよ君の目って節穴?知ってたけど」
「朝っぱらからイラつく野郎だなあ手前はよお…!」
静かな怒りは俺の顔を覆い尽くす手のひらに顕著に現れる。力を込めて掴まれる顔面、悲鳴を上げる自分。
「ちょっ…!痛い痛い痛い!!」
「少しは目覚めたか、クソノミ蟲」
悪態と同時に離された手のひらを恨めしく視線で追いかけながら、忌々しげに言葉を吐き出した。
「…おはよう、シズちゃん」
「おう、二回目だがな」
化け物と迎える朝だなんて全く笑えるだろう?もう慣れてしまった自分に俺は泣きたい気分だよくそったれ。


(:20110613)
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