“ここから先に、境界線があります。”
誰に言われてでもない、自分で決めたラインを踏み越えることを拒んだ。
「…N?」
訝しげにこちらを見る視線など知らない。何も聞こえたりはしない。幼子のように目と耳を閉じた、外界との接触をシャットアウトする。
なんて素敵な自分だけの世界が広がる、ここはとても心地がいいのに。
「………」
初めてこの、沈黙が痛いと感じてしまった。今までひと時たりとも考えることなどなかったのに、自分はとんでもなく我侭な人間になってしまったようだ。
「─── なんでもないよ、トウヤ」
表情に上手く笑みを貼り付けて、歯の浮くような台詞を並べて。白々しい、そうだそもそも、ここに来ることからして間違いだったのだ。無利子の救いを差し伸べるヒーローが眩しくて目を瞑る。都合のいいときにだけその姿形を映す。
つまるところの自己嫌悪が乱舞する脳内パーティー、招待状は一枚も出されてなどいない、主催者だけの孤独な宴会。
「、そう」
「ごめんね、今そっちに行くよ」
「うん、それはいいんだけどさ…」
何かを言いかける口を塞いでしまいたかった。手段はいくらでもあるのだが、ちょっと無理矢理なお芝居になってしまうので即却下。
自分を誤魔化すことだけに長けているんだ、卑怯だろう?
そう泣いて喚いたら、優しい彼はなんと言ってくれるのだろう。いくらでも想像できる慰めの言葉を一つ一つ噛み砕いて、苦笑い一つ零す。なんて空疎な自分、考えを巡らせることもだんだん飽きてきた。
「行こうか」
区切り線、未だ飛び越えるものなし。


(:20110612)
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