※リンダ×八面六臂


「六臂さんのこと、好きです」
慣れてない告白を舌に乗せて、目の前で紅茶をたしなむ彼に向けて、それは情欲の意をも含んだ一言を投げつけた。直球ど真ん中、下手すりゃ空振り三振に終わってしまうかもしれない一世一代の大告白の行く末を握っているバッターは、きょとんとその赤い赤い瞳を見開いたまま。
「ずっと見てたんです、貴女がここに来てから」
「最初はなんていうか…綺麗すぎて声もでなくて」
「でも、そういう奴に限って中身は最悪だったりするんで、ちょっと避けてたんです」
「でも、六臂さんが他の人と喋ってるのとか見て、全然自分を飾らないのが、なんていうか新鮮で」
「多分、一目惚れです」
一息で言い切った途端に、すごく息が詰まるような気がした。酸素を取り込めない口は、きゅっと閉じたまま、時折その肉を歯で噛み締めて、心臓の音が、気持ち悪いくらいには煩くて、
どうにでもなれと思っていたはずなのに、いざとなるとどうにかなってほしいと考えてしまっていて、
そのうち武者震いなんかも起きるんじゃないかと思ったら、とんでもなく自分が情けなく思えてきた。
「…六臂さんが月島さんとか、デリックさんとか、サイケさんとか津軽さんとか…他の人と楽しげ話の見てて、思ったんです」
「嫌だな、って、六臂さんが他の人と話してるの、話して笑ってるの」
「思いきって日々也さんに聞いてみたら、恋だって」
「似合わなさすぎてびっくりしたし、同じ男同士なのにとも思いました。でも、」
息を、吸って。
「気づけて、それで納得できて、それでまた焦がれて焦がれて、最近はとにかく胸が痛くて、」
「でも、貴女にそんな気持ちを抱けたことは、すっごく、幸せだなと思って」
「好きです」
「六臂さんのことが、好きです、俺」
熱くなる目頭を押さえる余裕も猶予もない。とにかくありったけの想いをぶつけてみる。最後の方は可哀想なくらい声が震えてて、失敗したかなとも思った。それよりも達成感の方が強かったけど。
「─── なんていうか、」
六臂さんは、視線を少し横に逸らして、静かに話し始めた。穏やかな、自分の好きな声音で、ゆっくり。
「すごく、突拍子もないね」
「…自覚してます」
つっこまれた。
「ムードも、ないかも」
「…その通りですね」
「俺、男」
「…はい」
「避けられてたんだ、俺」
「うっ、」
ざくざくざく、と。音にして聞こえはしないけれど、確実に心臓にダイレクトアタックをかましてくる言葉の槍の雨。容赦がない人とは覚悟していたものの、実際の経験がない自分からしてみたら想像以上の傷となっている。そのまま化膿して、二度とこんなこと考えなきゃいいのにとまで、ネガティブな思考を巡らせたりもした。
「物好きっているもんだね、どこの世界にも」
六臂さんの声のトーンが、少し、低くなったような気がする。俯いていた顔を上げて、彼の表情を伺う。どこか寂しげに見えたのは自分の願望だろうか、そうあってほしいと、この期に及んで思いでもしたのだろうか。
「…俺は聖人君子でもなんでもないし、イエス様でもないから君の懺悔も聞いてあげることもできない。マリア様でもないから慈悲深い心で愛を持って接してあげることもできない。多分君にあげてあげることができるものなんていうのは、ほんの一掴みにしかすぎない。それも、すごくいらないものばっかり、君の重石になり得るものばかりだけど、」
「それでも、いいの?」
それが、合図のようなものだった。
例え満塁ホームランにならなくとも、しっかりとボールを打ち返してくれるだけの気持ちが、六臂さんにはあった。並べられた言葉の中に隠された、後悔はしないのかという問いに、
自分をゆっくり、答える。
「─── はい」
清々しい気分だった。
「…そう」
「あ、あの…六臂さん、」
「その先はまだいらないや」
「へ?」
「少なくとも、君がもう少し大きくなってもらってからで。格好つけたいでしょ?」
「あ、あの…えっと…」
「つけたいよね?」
「…はい」
上手く言いくるめられたような気もしないではない、というか絶対にこれはおちょくられている可能性が高い。
扱いにくいとも聞いたが、ここまでだなんて聞いてない。
重い溜め息と共に、先程までの緊張も捨てた。
「いい性格してますよね…」
「誉め言葉」


(:20110526)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -