人の役にたてることは好きだ。特に収集癖がある私の特性を活かして副産物として得られる有益なデータを提供すれば、大抵の場合は喜ばれる。目を輝かせて感謝されれば悪く感じる者はいないだろう、自分だってそうだ。適材適所という言葉の通り、自分は適正な場所で適当な支持を得ていた。
 だから、それに浮かれすぎていたのだ。

 例を見ない失態だった。私のサンプリングが、外部に漏れだしていたのだ。敵主力艦隊の、重要なデータだった。どこから、だなんて全く分からない。漏洩が発覚した時、自分はただただ絶望するばかりだった。
 当然のことではあるがその責任を自分は負うこととなり、処分として遠方の鎮守府に左遷されることになった。甘んじて受け入れるほかない状況で、これから自分はどうしていけばいいのか茫然とする毎日を送り続けた。
 大湊警備府、夕張型1番艦である自分の新たな着任先は東北の海域を守備するその場所であった。
「君が、ええっと……」
「夕張型1番艦軽巡洋艦夕張です」
「ああ、うん。事前に貰った資料の通りだね。僕がここの警備府の提督を任されてる者です、よろしくね」
 快活な表情で接してくる青年は、およそ提督という称号の似合わない人物であった。少しばかりの驚きで目を見開き、すぐさま体裁を整える。
「はい、ご指導のほどよろしくお願いいたします」
「あー、固いのはそこまで得意じゃないんだ。君も楽にしていいよ、夕張……くん?」
「は、はぁ……お好きなように」
「じゃあ夕張で」
 あまりの馴れ馴れしさに戸惑いを覚え、狼狽えつつも返事をする。前にいた横須賀でこのような部類の提督は見かけなかった故、夕張はどうしていいか対応に困った。
 しかしそんな彼女の狼狽する様を見抜いたかのように、目の前の青年は穏やかな声音で言った。
「大変だったみたいだね、話は聞いているよ」
 それを聞いて夕張の体は一瞬固まった。フラッシュバックする光景に、情けなくも泣きたくなってしまう。しかし元を辿ればそれは自分の起こした失態、己を戒めることで自己を保った。
「……お聞きの通り、あれは全て自分の責任です。こちらで自分がどんなお役に立てるかは分かりませんが、提督ひいてはこの警備府のため尽力致します」
精一杯の強がりだった。
 だがそんな夕張に対し、彼は疑問の声をあげる。
「――本当にそうなのかな?」
 今度こそ夕張は、驚愕の色でもって表情を染めた。唖然として何も言えない彼女に、なおも彼は続ける。
「おかしいなと思ったから君には悪いけどこちらで勝手に調べさせてもらったんだ。結果はどんぴしゃりだったよ。収集が君の担当だったとしても、そのデータを管理する側はそもそも鎮守府側なはずなんだよ。つまり責任があるとしたら漏洩を看過した提督や上の者だ。君のせいじゃない、むしろ君はよく頑張ったよ」
 突然の擁護は、優しくそれでいて正当であるとはっきり主張する声音でもって放たれた。間違っていないと、自分は正しいと胸を張って言い張られる。どんな人であれそんな彼に反論できる余地はなかった。
 そんなこと、今まで一度も言ってもらえたことはなかった。自分が貢献したと、そう褒められたことなどあの場所では一度もなかったのだ。むしろそれまでを全て否定されるかのような反応が、四方から鋭く自分を突き刺してきていたというのに。それなのに、今ここで面と向かって正しいと言われて。
 卑怯だと、思った。そんなにも暖かくされてしまったら、自分はいよいよどうしたらいいか分からない。女々しく泣くしかやることがないじゃないかと。
 夕張は胸中でそう零し、今日まで一滴たりと流すことのなかった雫をぼろぼろとその大きな瞳から溢れさせた。
「改めて、君を喜んで迎え入れるよ夕張。ようこそ、大湊へ」
 幼子のように泣きじゃくる夕張を慰めようと伸ばされた手は大きく角ばった男性の手で、じんわりと伝染る体温に次から次へと出てくる涙はおさまるところを知らなかった。


(:20130822)
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