言い訳だけが上手くなったねと、友人の口から発せられた一言が頭に染み付いて離れなくなっていた。それが、大人になるっていうことじゃないのと、曖昧に返した当時の自分は何を思っていたのか。ただ間違いなく言えることは、あの日頬を撫でた春の生ぬるい横風は、今も変わらず覚えている。
折原臨也という人間がいなくなったという噂はたちまち街に広がっていった。それをご自慢のネットワークで監視していた九十九屋はくつくつと気味の悪い笑いを溢す。随分上手くいったものだとは自分でも思うが、流石にここまでとはと予想以上の展開に少なからず驚いていた。結論から言ってしまえば、混乱。かつて自分が関わっていた全てのものは、その均衡があわやというところで保たれていた。崩れそうな城を作り上げた原因は間違いなく自分、しかしその当の本人がトンズラしたとなると、後始末は全て彼等の責任となる。
今頃は血眼になって自分を探しているだろうと九十九屋は言う。そこには多分、見つかるはずもないのに可哀想だといった意味も含まれているのだろう。今、自分はあの街にはいない。この数十年で積み上げてきたものは全部あそこに捨ててきたと言っていい。九十九屋が何かアクションを起こさない限りは、自分はきっとここで残りの何十年という時間を過ごすことになる。まだ30にもなっていない若造の人間が、もう既に人生の半分以上を棒に振っているこのトンデモ計画に奴が賛同したのは偶然。本当なら一人でやるつもりだったのに、気がついたら奴に操られるまま街を出ていた。
奇想天外なスタートダッシュに、これからのことを考えてみた。思い付かない、何があるかだなんてある種の恐怖も混じって考えたくはなかった。
「なんで海辺?」
「ロマンチックだろう」
「別に、新婚生活じゃないんだけど」
「じゃあここが一番見つからなさそうな土地だったんだ」
「無計画だったんだ」
「終わりよければ全てよし、だよ折原」
「意味わかんない」
ふざけた道を相変わらず進んでいくことにはなると思うけど、あの喧騒から抜け出せたことへの安堵は、少なからずあった。
本心だ、でもおかしいよ。人間が好きだなんて、結局言い訳にしか過ぎなかったわけだ。


(:20110519)
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