※11月 ゲーム本編ネタバレ注意
※主人公:月森孝介


頼りなさげに手のひらに自分の手のひらを重ねる、その遠慮さを少し含んだ動作にらしくないと笑ってしまいそうになった。表面ではいたって平静を装い、俺よりもがっしりとした四肢を外界から守るように、覆いかぶさるという表現の方が近いぐらい全身で抱き締めた。おずおずと背中にすがりつく手の力は弱弱しい。なんだこれは、これがあの月森孝介だとでも言うのか。
ああ知ってる、知ってるよ相棒。
菜々子ちゃんがテレビに放り込まれて、生田目がこれまでの事件の犯人だと分かって、無事にまだ小さい彼女を救い出せても、いまだにあの子は意識を覚まさない。日に日におぼろげになる月森の背中に誰も気づかないとでも思ったか、それともこいつは上手く誤魔化せているとでも思ったのだろうか。とんだ大馬鹿者だ。こちらもらしくなく声を張り上げて怒鳴りつけてやろうかと考えもしたが、ぎりぎりになって漸くこたえたらしくこうして俺の胸を借りることになっている。
さて、そろそろ声をかけてやるべきだろうか。嗚咽を漏らさない強情者をどう泣かせようか思案していれば、それまで押し黙っていた月森は思い出したかのように喋り始めた。
「―― あの時と立場が逆だな」
「だな」
「…なんか、癪」
「ぶん殴るぞ」
「やだよ、陽介のパンチ痛いから」
「そういうお前のだって相当だけどな」
「鍛えてますから」
「そうかよ」
正直にいうと、少し怒っている。なんでもっと早くに言ってくれなかったのか。一番最初に頼ってくれたのが嬉しい反面、気づいていたのに手を差し出せなかったことへの歯痒さも混じり少し八つ当たりのような怒りが胸中で渦巻く。微妙なお年頃ってムズカシイ。あるいはもっと俺が行動力のある人間だったら、もう少し結果は違っていたかもしれないのに。
悔しさを表に出さないのは相棒のため。嘘、半分俺のためでもある。こんな時でも体裁を取り繕おうとする自分自身に呆れる。
「…怒ってる?」
「それなりにはな」
「ごめん」
「おせぇよ、ばーか」
「うん、ごめん」
「…なんか俺だけが悪いみてぇだからやめろよ」
「うん、ごめん」
「だから、」
「ごめん、陽介」
見えない傷は、きっと今も月森の心臓を抉り続けているのだろう。そのうち化膿して、取り返しのつかないことになってしまうんではないかとたまに不安になる。大人になりきれていない俺は、傷を癒す方法を知らない。どれだけうまい言葉を並べたって、それは月森には詭弁にしか聞こえない。時間が傷を癒すだなんて嘘だ、だって一分一秒と過ぎれば過ぎるほど抉った痕はどんどん広くなっていっている。
だからって、それから痛々しいと目を背けてはいけない。今俺に出来る事といえばそれくらいで、誰にだって出来る事なんだ。せめてこの位置が他の奴に取られないように居座り続ける事ぐらいしかしていない俺自身は卑怯者だ。
「明日には、いつも通りに戻るから」
「…うん」
うん、月森。
ゆっくりでいい、ゆっくりでいいから抱え込んでその涙を隠す事だけは、俺の前では絶対にしないでくれ。


(:20111128)
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