※主人公:月森孝介


「不甲斐ない」
「いや…お前って実はとんでもなく馬鹿なの?」
「…言い返せない」
「言霊遣い級の伝達力はどこ置いてきたんだよ」
呆れたように返事を返す立場がいつもとは逆なのは勘違いなんかではなく、その理由は月森の体調に直結していた。これでもかと眉に皺を寄せ目を開けているのもしんどいといった姿を見せて、力なく俺の膝に頭を預けている月森の体温は平熱なんかよりもっと高くて、本人も久しぶり過ぎてびっくりしているというほどの高熱を出してぶっ倒れている我らがリーダー。本当は朝から体が重く不調であったと言っていたのに、何を血迷ったかこの男は平然と登校してきたのだ。異変に気づいたのは今朝一番に会ったときだったが、それが思い違いなんかではなく確信に変わったのは昼休みのこと。なんとなく触れた掌は思わず声を荒げてしまうほど熱かった。
「菜々子ちゃんに心配させたくないのは分かるけどよ、それで結局後になって倒れでもしたら本末転倒じゃねえか」
「賢いね陽介…」
「あほか」
ぺしっと軽く戒めるように額を叩けば、さして痛くも無いはずなのに月森は痛いと情けない声を上げた。どうもらしくない相棒の姿に嘆息し、今度は眠気を促してやるために叩いた額を撫で付ける。
本来ならばきちんと布団にもぐって寝ていなければいけないのに、風邪のとき特有の人恋しさが俺に膝を貸せと駄々をこねる方へ働いてしまった。流石に甘えられているのを無下にできる性格でもなかったため、布団には横たわらせたが頭は枕ではなく俺の膝に置かれることとなった。
アッシュグレイの髪の毛が上手い具合に閉じられた瞼にかかり、よく表情が伺えず月森の危うげな雰囲気をさらに醸し出した。苦しげな呼吸音を、現実の世界で俺はどうにもすることができない。もしもテレビの中だったなら回復魔法の一つや二つかけてやれたかもしれないが、考えるだけ無駄というやつなわけで。そもそも月森が体調不良を訴え始めたそもそもの原因はそのテレビの中であるわけで、結局は月森自身の回復力に任せるしかないという結果に戻るだけだ。
弱弱しく握り締められた右手首からじわじわと移ってくる尋常じゃない体温が赤裸々に伝えてくる悪化の傾向をみすみす見逃せるはずも無く、苦虫を噛み潰したような表情を自分が浮かべていることも承知で、さっさとこの困ったさんを寝かしつけてしまおうと奮闘する。
「いいから寝ちまえ。もう喋んな」
「…やだ」
「…月森さーん?」
「まだ、寝ない」
「どんどん熱あがってきてんじゃねえか」
「いい、」
「お前なあ…」
「陽介いるのに、寝らんない」
それはつまり俺が睡眠を妨げる一番の理由ということなのか。それなら早々にここから立ち去ったほうがいいのでは、でないと月森はいつまでたっても自分を養生することに専念しないのでは。そう思って口を開こうとすれば、月森はそれに被せるように言葉を続けてきた。
「せっかく陽介がいるのに、寝てなんかいられない」
…常々思っていたが、あほかこいつ。
「ばーか」
「あたっ」
「寝ろ。病人に拒否権なし」
「…陽介」
「…なんだよ」
「照れてる?」
「うるせ」
「可愛い」
「うるせえ」
「起きてもいてくれるなら、寝る」
「………」
つくづく自分の体を顧みないやつだなあとほとほと呆れるが、だがそこがリーダーらしいっちゃリーダーらしくていや決して誉められたことなんかじゃないけどでも月森らしさに安心する。でもそれで取り返しのつかないことになったりしたら悲しむ人は月森が思っている以上にいるので、ここは素直に手を握り返すことで承諾の意を示す。
これはあくまで妥協であって了承ではない、決してそんなことは無い。だから早く寝ておくれよ相棒、頼むから。嬉しそうに握り返してなんかくんな。


(:20111030)
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