※数年後設定


記憶を辿ってそれよりか幾分違って見える相手の姿に、気まずさを覚えてそっぽをむいた。頬についた手は男らしく角張り、伏し目がちに視線を雑誌へ落とす瞳には、あの頃テレビの中でしか滅多にかけなかった眼鏡が常にある。あの頃愛用していたオレンジ色の縁眼鏡とは違う、黒縁の落ち着きのあるデザインのものでそれがまた違和感を漂わせる。
なんてことはない、たかが4年老けただけなのにも関わらずここまで彼らしからぬ胡散臭さというかぎこちなさというか。もしこの場にあの頃の仲間がいれば彼ももう少し違っていたのかもしれないが、生憎とここには自分と彼との二人だけだった。
緊張でもしているのだろうか、いつもは流暢なはずの言葉が一言もでてきてくれない。いたたまれない空気は昔からどうも苦手で、そんな状況を打開したくて口火を切った。
「あ、あのさ」
視線だけがこちらに送られた。そのヘーゼルに見つめられるとますますどうしていいか分からなくなって、口ごもる自分に「なんだよ」と先を促してくる。言いたいことは腐るほどあるというのに、それを上手く伝えるための手段がなかなか見つからない。焦る程言葉につまり音にならず唾液と共に飲み込むという繰り返し。
周りの騒がしさがまるで耳に入らないくらいには必死になっている。フィルターがかかった雑音の向こう側では店内放送による迷子の知らせがかかっていた。
「…いつ、帰ってきてたのよ」
「昨日の夜だな。流石に夏休みだからお袋が帰って来いってうるさくって」
「ふ、ふーん……」
「なんだよ里中、なんかあったのか?」
まともに会話できるようになったのかは疑問だが、一言二言交わした中で気づいた僅かな相手の変化にくすぐったさを感じた。まだどこか少年らしさを残していたあの頃の声音と、今の低みが増した声音とでは大分違って聞こえる。首を傾げて怪訝そうに尋ねてくる仕草もやけに様になっていて、少々腹が立った。
「別に」
「いきなり不機嫌そうになんなよ怖ぇよ」
「なんでもないってば」
違いを見せ付けられて、まるで自分は成長してないとでも言われているようでいい気分がしない。そもそもあの花村がここまで化けるだなんて誰も聞いていない。そういえば黙っていればそこそこ顔はいい方だったかなどという情報は頭の隅に投げ捨てた。
「あいつも帰ってきてるぜ」
「へー」
「なんだよ、興味なさそうだな」
「そんなことないけど」
「ふーん」
「…なによ」
「いやあ、昔はあんなにぞっこんだったくせにえらい違いだなあと思って」
「ぞ、ぞっこんなんかじゃないわよ!」
「どうだか」
「喧嘩売ってんなら買うけど…?」
「冗談!お前に丸腰で挑むほど馬鹿じゃねえよ俺は!」
「それ褒めてんの貶してんのどっちなの…」
思い悩み遠慮していたことがあほらしく感じられるほど残念な性格は変わらずそのままで、外見だけがこんなにも育ったことに関してはそれはそれでむかついた。急上昇していた心拍数も驚くほど落ち着いてきて、それは感謝すべきなのかそうでないのか微妙に感じた。
「良くも悪く相変わらずね花村は…」
「よく分かんねえけど失礼だなおい」
溜め息混じりに見上げた八十稲羽の空は妙に青々としていた。


(:20111023)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -