※折原が弱ってるだけ


ざあざあと叩きつける雨音に混じって聞こえる冷房の送風音や、パソコンのけたたましい起動音。この季節は嫌いだ、雨は折角の人間観察に勤しめるチャンスを一瞬にして奪う。何もかもが憂鬱になるこの時間。一分一分、時は過ぎていっているはずなのに、ここだけが世界から切り取られ永遠を与えられたような、そんなある意味での静寂。外は相変わらずのどんよりとした灰色。溜め息を吐きたくなる色はここ最近しょっちゅう現れる。
「おい、」
大きな壁一面の窓を前にして座っていたら、後方から呼ばれた。不本意ながら聞き慣れた低音から一瞬で誰かわかったのはもう長い付き合いの賜物だろう。キャスター付きの椅子をくるりと回転させながら心中でぼやく。
「やあ、いらっしゃい」
「やあ、じゃねえよ」
「わざわざ何の用?俺君を不快にさせるようなことでもしたかな?最近はないと思うんだけどねえ…」
「それが問題なんだよ」
つかつかと歩み寄ってくる金髪にバーテン服の男。顰められた眉間と少し歪められた表情から読み取れるものは、自分に対する隠しようも無い不満。
「一ヶ月も音信不通でなにやってんだ」
「あれ、そんなに?」
「携帯、電源切ってるだろ」
言われて手を伸ばせば、確かに無機質なそれは真っ暗な画面だけを表示していた。電池が切れているのだろう。充電器を差し込み電源ボタンを長押しした。待受画面が表示されたと思ったら、着信140件、メール283件という半端のない数が表示されていた。普段ここまで放置するような事は全く無かったので、驚きから目を見張る。
「あちゃー。もしかしてシズちゃんもかなりメールとかした?」
「ああ、」
「なるほどね…」
「なるほどね、じゃねえよ馬鹿。一ヶ月も引き込もって何やってんだ」
「んー、ちょっとね」
ぱちん、と折り畳み式の携帯を閉じてスリープモードだったパソコンを立ち上げる。パッと明るくなる液晶と少々にらめっこしながら、彼に顎で近くにあるソファを指し座るよう促す。
「で、用件はそれだけ?」
ぼすんっ、と勢いよくソファに腰かける彼を確認して話題を切り出す。
「ああ」
「俺も人のこと言えないけどさあ、シズちゃんも暇人だよね。それもなかなかの」
「あ?」
「だってわざわざ俺の生存確認するがためにここに来たなんてさ。あーあー、できる彼氏を持てて嬉しいなあ。で、仕事は?」
「休み」
「あっそう…」
会話がぶつりと途切れ、また雨と周りからによる雑音に部屋は包まれた。なんだか少し居心地が悪い。妙にふわふわした感覚から抜け出せない。わだかまるものを上手く言葉にできなくて喋ることを諦めれば、今度はあちらから話題を振ってきた。
「何やってたんだよ」
「さっきも言ったけど」
「答えになってねぇ」
「わがまま」
「いいからさっさと答えろ」
傲慢さは相変わらず健在のようで、呆れた反面それが少し楽にも思えた。まるで知らない人間と話をするのには体力がいる。不慣れなことは今あまりしたくはなかった。疲れて、いるのかもしれない。
何に?
「爆発しそうだから引きこもってたって言えば伝わる?」
「…なんで手前はそういちいち面倒臭ぇ言い回しすんだよ」
「言葉が見つかんない」
「下手くそ」
シズちゃんだけには言われたくなかった。
溜め込むのが下手くそだとさんざん言った後、彼はここ一ヶ月で色を失くした俺自身を覗き込んできた。不健康な見てくれは誰の目に映っても酷いものだなあと、彼の鳶色を見つめて思う。
「考えんな、寝ろ」
「…そうする」
今日は熟睡できそうで安心したよ。


(:20111018)
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