※主人公:月森孝介


ここに来て、あっちにいたときから変わらないものを見つけた。それはいいことでもなんでもなくて、くだらない、どこにでもあるようなもの。ここは小さな噂一つとっても知れ渡るのが早い。ただその速度は、あっちにいたって変わらないものだった。どうでもいい共通点にうんざりしながら、自分の生い立ちに落胆するなどという日々には、もうご定番のものとなってあきた。刺激が欲しいと思い始めたのはその頃からだったような気がする。
人の評判だったりするものはいつでもすぐ後ろについてきてて鬱陶しい。ただ俺にはそれを上手く吐き出せるスキルが身についてなかったんだなと、あの日月森に助けられて分かった。月森は、むかつくぐらいにそれが上手かった。だから相棒なんて呼んで慕って、ちょっとでもあいつにある何かを自分の中に取り込みたかったんだ。それも無駄だって分かったのは、鮫川で青春漫画よろしく殴りあったとき。
思い返してみればからっぽだった、上辺だけ取り繕うのが月森より少し上手いだけであとは何もなかった。つまんない人間の例みたいで笑えなくて、気づいた日には目の下がこれでもかって酷いことになるくらい泣いたような気がする。仮病を装って学校まで休んで、何してたんだか。
久々に外出て太陽が眩しいことを思い出して、また少し泣きそうになったのは内緒だ。そのまんま久しぶりに登校したら、意外なことにわりと心配されてた。くすぐったかったけど嬉しくて、でもそれ見てまた自分に落胆した。
つくづくくだらねえな、って笑い飛ばせていたらそれは半端なく楽なことだったんだろうけど、でもなんか月森見たらそうも言えなかった。言っちゃいけないような気がして、また適当に自分を取り繕ってた。そしたらいろいろと爆発しそうになって、ついにはあいつの前で泣き出してしまったんだ。
みっともない面何度も晒して、でもそれでも月森は呆れることなく俺に変わらず接してくれていた。自然過ぎる優しさに胸が痛くなったときもあるけど、月森が傍にいてくれるということを実感するととても楽になれた。
依存、っていうのにはちょっとまだ何かが足りないような気がする。そう呼ぶのにはまだ不完全で、でも周りからしてみればあまり変わらないのかもしれないな。これは俺の主観であって他人がどう思ってるかは考えていないから。ただ依存なら、それでもいいと思えてしまう。むしろその方が後でいろいろと面倒じゃなくていいのかも、なんて。
あいつは言ってた、俺が心配だから傍にいつでもいるって。真偽は確かめたくないような気がする。だってそれでまた小西先輩のときのように傷つくのが怖いから。
そうやってまた無意識のうちに壁を作ってるんだ。
最低だろ、俺。

陽介の独白は聞いていて愛おしくなるものだった。彼は知らない、俺が向けるその優しさの中に含まれた下心の塊を。言うつもりもない、だってそんなことで陽介が離れていったりでもしたらそれこそ元も子もないから。本当に卑怯なのは俺自身だということに陽介は一生気づかないままでいてくれる。そうして上手く彼の目を塞いで、都合のいいものだけしか見せないようにするのが俺の愛情だ。
多分誰だって否定するだろう、そんなのは陽介を好きになってからずっと分かりきっていることで、それでもなおやり通そうとするずるい人間なのだ。月森孝介という奴は決して暖かいもので形成などされていない。そう錯覚させているだけなのだ。
ねえ陽介、苦しんでるお前を見て喜ぶような奴でごめんね。
でもどうしたって、それ以外お前を上手に愛せる方法が分からないんだ。


(:20111002)
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