雨が降ると、途端に臆病になる。それは現在進行形でこの町で起こる複雑怪奇な事件のせいでもあり、また少なからず自分の精神状態も影響していると思う。あくまで推測の域を出ないけれど、否定されなければ唯一つの真実となっていつまでも心の中に存在し続ける不安要素に目を背けたくなった。
目の前に見えるあいつの、広くてつい頼りたくなってしまう背中。つい手を伸ばしそうになって危うい。触れてしまったら、その先から自分の考えていることが相手に筒抜けになってしまうんではないかと思ってしまう。自意識過剰だ、でもそこまで怯えるのにも訳がある。
怖い、次に霧が出るのはいつなんだろう。
怖い、次にテレビに放り込まれてしまうのは誰なんだろう。
怖い、次にテレビの中へと足を踏み入れたとき、また自分はここに帰ってこれるのだろうか。
自信なんて一つもない、いつだって虚勢を張っているだけだ。あいつがいなきゃ、ろくに上手く息も吸えないのに。昔は、こんなんじゃなかったのに。
「陽介」
いつの間にか縮こまっていた俺を、簡単に意識の底から掬い上げたのはあいつだった。こんなに容易く引き上げられて、そうしてようやく声を上げることが出来る。情けないけど、もう仕方のないことだって諦める他なかった。だってそうでもしないと、平然とあいつの傍にいることができない。
「、うん」
俺より少し冷たくて大きい手のひらが頬を覆う。擦り寄るようにすれば、慈しむかのように撫でてくれる。
弱いことを許してくれるこの手だけが、今は唯一の救いだった。
(:20110821)