あいつの、酷く傷ついたような表情を見るのが初めてで、それを嫌だと感じたのも初めてで、それが恋だと教えられたのも初めてで、初めてという一言にとにかく焦った。絶対にない、と否定できない自分は、必ずどこかにいる。それが当たり前のように、いつでも心に存在した。俺の当たり前は存在理由となりそれはつまり臨也のことが好きだという確定条件へと変わり、そうなるともう後はどうしたら目先の奴が手に入るかをただひたすらに考えるだけだった。
順応性に長けた自分を褒めてやりたくもなった。あんなにも目の敵にしていた奴を、こんなにも素直に受け入れられるものなのかと。奴の好きな人間とやらは、こういうのが上手いのだろうか、だから好かれるのだろうか。人間になりたいと、場違いなことを考えたりもした。
ネオンが照らす奴の姿を追いかける夜は、もう憂鬱なんかではない。臨也もそうであればいいと、そうであれと強く願ったりもした。独り善がりにもほどがある祈りは、排気ガスの臭いが充満する都会の空気に溶けて消える。
ああ、また奴の顔がくしゃりと歪んでいる。あれは、良くない顔だ。俺以外のことを、考えている顔だ。
「好きになれ」
命令口調で放つ言葉の弾丸は、いつもあの一言で弾き返されてしまう。
「嫌だ」
何度も何度も、くだらない言い回しで並べられたはずの罵声は今だけだんまり。あまりのイレギュラーさに吐き気を感じるほど、気に入らないこの空気。早く、早く奴も諦めて、無意味だと思い知ればいいのに。
「シズちゃんには、一生分からないよ」
わからない、何でそんなにも姿の見えない相手に躍起になるのか。
わからない、何で奴が自分を好きにならないのか。
わからないから、きっと今日も泣きそうな背中の臨也を、街に飲み込まれそうになる前に追いかけるのだろう。


(:20110804)
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